永訣と思われた、あのいつかの戦火から早五十年あまり。
たった独り。しぶとく生き残って、青春など縁も無いまま少女から女性へ…そして、自らの衰えを自覚してきた老婆へと変わり果ててしまったのに。
…自分を見下ろす美しい魔の者は、初めて会った時と代わらぬ美貌を保っていて、飄々とした代わらぬ物言いで……予想だにしていなかった感動の再会だというのに、嬉しさよりもなんだか憎らしく思えてしまう。
互いに見つめ合いながら、ノアゆっくりと膝を曲げ、横たわるイーオのすぐ傍に寄ってその端整な顔を近付けた。
「………ねぇ、ノア………私…嬉しいわ。……またこうやって…ヨルンと、あなたに…会えて………」
「………ええ」
しわだらけの震える唇から、徐々に赤みが消え失せていくのを…ノアは彼女の声に耳を傾けたまま、見守っていた。
口を開く度に、流れる赤い線が肌を走り、次第に太くなっていく。
胸に抱いていたヨルンは、いつの間にか…ピクリとも動かなくなっていた。
「………私ね…………小さい頃から……あなたに、伝えて…おきた、い…事が…あった、の。………あの、頃は…恥ずかしく…て、言えなかっ…た…けど………今…なら…ちゃんと…言え、る…わ…」
「―――何ですか、フローラ」
息も絶え絶えな彼女に、ノアは小さく首を傾げた。
柔らかな月明かりが差し込む、真っ暗な夜。
限られたその明かりは、互いの表情を鮮明に映すには不十分だったが。
きっとこれが、最後なのだろう。
記憶を辿った先に潜む、何度も振り返っては見た少女の笑顔を………変わらぬ、イーオの綺麗な笑顔を、ノアの瞳は確かに見た。
私のフローラが、笑っていた。
「―――…私、ね……あなたの、事が………好きなの…。……ずっと、好きだったのよ…」
あなたは、ちっとも知らなかったでしょう?
小さな女の子が、敬愛する陛下でもなく、私を好いてくれた王子でもなく、あなたばかりを、見ていた事を。
私はいつも、あなたを待っていた。
あなたが、私の車椅子を押してくれるのを期待しながら。


