横たわる身体は、柔らかな純白の大地に埋もれていた。
そして岩の様に固く巨大な鱗の塊が、上下の鋭い顎で食らい付いている。
その身の半分以上はヨルンの口の中にあり、牙が食い込んだ胴体からは生暖かい赤が溢れ出していた。
真っ白なキャンパスに多量の赤が滲んでいくに従い、じわじわと身体の力が、温度が、よく分からない何かが…流れ出ていってしまっているのが分かる。
ただでさえ老いて不自由だった身体が、今はもう自分の意思だけでは動かす事の出来ない、呼吸をするだけのただの人形と化してしまった。
そんな使えない身でも、感覚を探ってみれば辛うじで右手の指先だけは、前後に動いた。
…もう指先の感覚も無いけれど、きっとゴツゴツしていて固いであろう…自分にかじりついている大きな蛇の頭を、軽く摩った。
「―――…もう、目は…覚めた…の…?」
…これは自分の声なのかと、あまりにも弱々しいその掠れた我が声に一瞬耳を疑いながらも、イーオは苦笑を漏らした。
孤を描いた唇の端から、赤い一筋の線が走り落ちる。
何度も瞬きを繰り返し、次第に見えなくなっていく眼球でイーオは大蛇をじっと見詰めた。
半透明から次第に実体化していくヨルンの長い巨体は、頭上から降りしきる不可思議な黒いダイヤモンドダストの雨に塗れ、頭から尾に至るまで黒々と変色していた。
イーオに食らい付いた途端、何故かピクリとも動かなくなったヨルンは、数秒の間を置いて突然小刻みに痙攣し出していた。
目玉を白黒させ、口の端からだらし無く垂れ下がった舌は、雪の上で静かにのたうちまわっている。時折小さく呻き声を上げれば、口内から粘り気のある唾液がとめどなく流れ出てきた。
…大蛇ヨルンは、飢えに狂った今までの凶暴ぶりから打って変わり、明らかに目に見える衰弱化の一途を辿っていた。
…自分と同様に弱っていく大きな愛おしい魔獣を、イーオは悲しげな表情を浮かべて指先で撫でた。
「……苦しい?…ごめんなさいね…でも苦しいのは…これで終わり、だから…ね…」
ヨルンの身に滲んでいく黒いダイヤモンドダストは、“器”だったイーオの、全ての中身だ。
そして岩の様に固く巨大な鱗の塊が、上下の鋭い顎で食らい付いている。
その身の半分以上はヨルンの口の中にあり、牙が食い込んだ胴体からは生暖かい赤が溢れ出していた。
真っ白なキャンパスに多量の赤が滲んでいくに従い、じわじわと身体の力が、温度が、よく分からない何かが…流れ出ていってしまっているのが分かる。
ただでさえ老いて不自由だった身体が、今はもう自分の意思だけでは動かす事の出来ない、呼吸をするだけのただの人形と化してしまった。
そんな使えない身でも、感覚を探ってみれば辛うじで右手の指先だけは、前後に動いた。
…もう指先の感覚も無いけれど、きっとゴツゴツしていて固いであろう…自分にかじりついている大きな蛇の頭を、軽く摩った。
「―――…もう、目は…覚めた…の…?」
…これは自分の声なのかと、あまりにも弱々しいその掠れた我が声に一瞬耳を疑いながらも、イーオは苦笑を漏らした。
孤を描いた唇の端から、赤い一筋の線が走り落ちる。
何度も瞬きを繰り返し、次第に見えなくなっていく眼球でイーオは大蛇をじっと見詰めた。
半透明から次第に実体化していくヨルンの長い巨体は、頭上から降りしきる不可思議な黒いダイヤモンドダストの雨に塗れ、頭から尾に至るまで黒々と変色していた。
イーオに食らい付いた途端、何故かピクリとも動かなくなったヨルンは、数秒の間を置いて突然小刻みに痙攣し出していた。
目玉を白黒させ、口の端からだらし無く垂れ下がった舌は、雪の上で静かにのたうちまわっている。時折小さく呻き声を上げれば、口内から粘り気のある唾液がとめどなく流れ出てきた。
…大蛇ヨルンは、飢えに狂った今までの凶暴ぶりから打って変わり、明らかに目に見える衰弱化の一途を辿っていた。
…自分と同様に弱っていく大きな愛おしい魔獣を、イーオは悲しげな表情を浮かべて指先で撫でた。
「……苦しい?…ごめんなさいね…でも苦しいのは…これで終わり、だから…ね…」
ヨルンの身に滲んでいく黒いダイヤモンドダストは、“器”だったイーオの、全ての中身だ。


