亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

相変わらずやんちゃで、他人を困らせるところは変わらないなぁ…と思いながら、イーオは膝の上で両手を重ねた。
かじかんだ手が震えているのは、寒さのせいだけではないのだけれども。

…怖い、のだろうか。

いや、可愛いあの子を怖いとは…思わない。

…すぐに襲い掛かるであろう、体験したこともない凄まじい痛みに、身体が恐怖しているのだ。

…自分は、戦う兵隊さんではない。
車椅子が無ければ何処かに行く事も出来ない、誰かの助けが無ければ独りで生きていけない、ただの…一人の、お婆さん。
少しだけ変わっている、人とは違うものを持つ、もう生い先の短い…。


痛みには、慣れていない。

痛いのかしら。どれだけ痛いのかしら。悲鳴とか上げてしまうくらい、痛いのかしら。

少し、怖い。
いえ、本当はとても怖い。

だけど。








「………あなたの方が、もっと、痛いのよね…ヨルン。痛いわよね。大丈夫よ、私が……もう終わらせてあげるから。………………おいで」




このひ弱な胸に抱え込むには、あの子はちょっと……ちょっとだけ、大き過ぎるけれど。

なんとか、受け止めてあげたい。

約五十年振りの再会は、とんでもなく慌ただしくて、少し悲しいものになってしまったけれど。
この終わり方に、後悔などしていない。







口を空けたヨルンの姿が、視界の悪い吹雪の中で次第にはっきりとなっていく。
生々しい口の赤い色や、舌に絡み付く唾液の長さ、闇夜に映える薄汚れた牙…それらが鮮明に、この老眼でも綺麗に見えた時には、もう、目と鼻の先にヨルンが迫っていた。

その一瞬だけが、イーオには、止まっている様に感じた。
巨大な口が、ゆっくりと…自分に覆いかぶさっていく。
生暖かい吐息は、吹雪の寒さを和らいでくれた。素直に、暖かいと思った。


これで、良かった。

だって、会えたのだもの。



良かった。


だって、本当に。
















「―――フローラ」