「イーオ!…イーオさん!!…ジン!…あんた何馬鹿な事してるの!?この鞭、解いてよ!!……解けって言ってんのよ!!」
彼女を大蛇の前方に放って独り退避してきたばかりか、何故か救出させまいと自分達の障害となるジンに、イブは沸騰する憤りを声にして怒鳴った。
無言を貫く彼を鋭く睨み付け、胴体に何重にも巻き付いた忌ま忌ましい鞭に爪を立てる。“闇溶け”で鞭の手から逃れようとも試みるが、ジンの鞭が何かしら阻害をしているのか、上手く闇を纏えない。
同じくリストも身じろぎするが、緩ませようとすればする程、鞭は食い込むばかりだった。
募る焦燥感と、増える彼女との距離。
早く、早くしなければ。“闇溶け”なら一瞬なのに。
早くしないと、イーオが。
「イーオ…!!」
目下を物凄い速度で通過していく大蛇の巨体。迫る巨大な口。
イブは悲痛に満ちた叫び声を上げ、闇夜と吹雪に覆われた視界の奥に小さく映る、彼女の朧げな姿に、目を…向けて。
「―――良いのよ、それで。私の傍に来ると、とても危険だから。………それじゃあ、お元気でね」
イブとリストの優れた聴覚と視覚は、彼女の柔らかな笑顔と紡がれた悲しい言葉をしっかりと捉えて。
…刹那、大蛇の巨体の影に消えた老婆に向かって…ただその名前を、イブは叫び続けた。
白の主、と言われる真っ白で巨大な蛇の魔獣は、狩人の世界では数多く崇拝されている神々の一つとされていた。
そんな白の主の、死にかけだった子供を拾ったのは…一体いつの事だっただろうか。
昔は、両手の平に収まる程小さくて。
ちょっと離れただけですぐに追い掛けてくる甘えん坊で。
少し噛み癖があったから、よく指貫きで悪戯な口を塞がれていて。
少しずつ、大きくなっていく。
成長して、徐々に魔獣らしくなっていくあの可愛い子。
遠い、色褪せた記憶に残る面影を思い出せば…。
本当に、随分と大きくなったものだと……近付いてくるヨルンを見詰めながら、苦笑を浮かべる。


