亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


背丈の高い立ち並ぶ針山の間を、縫う様にひたすら駆け抜ける。
先程までいた視界の開けた場所とは違って、その付近は隙間無く針山が立っている。
何度も身体をよじって通り抜ける二人に対し、後ろの大蛇は障害物など構わないとばかりに、頭突きで針山を根元から折って進んでいく。


「―――いたぞ…!」

恐怖の追いかけっこにげんなりとしていたイブの前で、リストが不意に叫んだ。
彼の見詰める前方に視線を向ければ、針山に囲まれて独り佇むジンの姿があった。
臨戦体勢に入っているのか、愛用の鞭をしならせながら彼の隻眼はこちらをじっと見ている。

…言われた通り、とりあえず彼の元へ上手く誘導する事が出来た。…だが、蛇を誘導した後、ジンは一体何をするつもりなのだろうか。

…相変わらずそれだけが分からないが、とにかく次は彼に委ねるしかない。



対峙する互いの距離が十メートル前後というところまで縮まった時、二人は計画通り、今まで走ってきた直線ルートから外れる様に脇に転がり込んだ。
深い雪に頭から突っ込んだ二人の脇を、物凄い勢いで大蛇の長い巨体が通り過ぎていく。

目の前から獲物が消えた事に大蛇は気付いているのか。勢いは衰えぬまま、そのまま真っ直ぐジンに向かって突き進んだ。


…途端、蛇の目と鼻の先に、何処からともなく黒煙が沸いて出て来た。
“闇溶け”で現れたのは、今まで静かな攻防を繰り返していたトゥラで、ここにきて唐突にその潜められていた牙を出した。

元々、狩りにおいて不意打ちを得意とする魔獣のトゥラ。
予想だにしない時、何処からともなく…という暗殺者の如きトゥラの攻撃は、ここで発揮された。


唯一実体のある鋭利な蛇の口に爪を立てると、グッと前に身体を傾け……ぼんやりと浮かんでいた大蛇の片目に、噛み付いた。

瞼が開けば、眼球も実体化している箇所に入る。
たった一度の、一秒足らずのその不意打ちは、どうやら結構な痛手となった様だった。


不協和音の悲鳴が上がると同時に、どす黒い血が噛み千切られた片方の眼球からほとばしる。

片目といえども、視力という大事な感覚を一瞬でも無くしたのだ。