亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


足場にしている樹木から飛び降りようとした直前、無感情なジンの声がイブを呼び止めた。

「…策が、あります。……あの蛇は自己治癒の能力を持っています。リスト=サベスと共に連続的に攻撃を仕掛け、治癒の隙を与えぬまま…上手く私の元に、誘導して下さい」

真意の分からない策とやらに首を傾げつつも、イブは黙って頷いた。
直ぐさまリストの元に駆け寄ると、擦れ違い様にジンが述べた通りの事を伝える。

「…何だそれ。………まぁ、策があるだけでも充分だけど…」

それがどういう結果を生むのか、想像も出来ないが今は考えている暇など無い。
言われた通りに行動に移す二人を針山の天辺から眺めながら、ジンはイーオを支えている方とは反対の空いている手に、闇を纏わせた。

黒煙に似た闇が掻き消えると、再度現れたジンの手には、長い鞭が握り締められていた。
鋭い隻眼で、闇夜の中で暴れる大蛇の動きを追いつつ、ジンは息を整える。

「……それじゃあ、さっき私が言った通りに…お願いね………ありがとう…。…いえ、やっぱり……ごめんなさいね…」

「………いえ」

申し訳なさそうに笑うイーオの声を背に受け、ジンは音も無く、大蛇が這い回る地上に降りた。





自己治癒能力とやらは、予想以上に早いらしい。大蛇の突進と、刃同然の突風の嵐を躱すだけでも精一杯。
半分無茶を覚悟でどうにか一撃…大蛇からすれば壁に小さな傷を掘る様な、大してダメージにもならない攻撃を放つ事が出来ても…悲しいかな、努力の証はものの数秒で綺麗に塞がってしまう。

…本当に嫌になるほど、埒が明かない。


「怯ませるなら話は別だが…弱らせるのは無理だ!………仕方ない、このまま誘導するぞ!」

目の前でとぐろを巻いて咆哮する大蛇を前に、リストは背を向けて逃亡を計った。そのすぐ後ろにイブも続けば、逃がすまいと闇夜にぼんやりと灯った大蛇の双眸がたちまち追い掛けてきた。

立ち並ぶ木々や針山、純白の大地を突風で削りながら、大蛇は大きな口から牙を覗かせて二人との距離を縮めていく。
…異臭を放つ巨大な口は吹雪を飲み込み、風を切り、前方を走る獲物目掛けて加速した。