謁見の間から出られない今、分身でしか移動出来ないノア。
地震の元凶を絶つために分身の身で城外に出た直後、さして遠くはない何処かで行われている戦闘の気配を、ノアは瞬時に感じ取った。
片方は言わずもがな、大蛇のヨルン。対するもう片方は…これは憶測だが、あのフェンネルの使いである二人あたりであろう。
厄介事はなるべく彼等に委ねておきたいのだが、あのヨルンが相手なのだ。一筋縄ではいかない。
(……分身の身体では、満足に魔術が使えませんが……無いよりマシ、か)
…可愛いヨルン。悲しいけれど、可愛いあの子の命をこの手で絶つ決意は固めたのだが。
………自分でも驚くほど弱ってしまった今の力で、果たして勝てるだろうか。
この手はあの子の息の根を、止める事が出来るだろうか。
…酷な事であることは分かっている。
けれどヨルンは、自分が愛情を注いだ生き物。
自分が育てた、立派な大蛇。
育てたのが自分ならば、また殺すのも、外ならぬ自分でなければならない。
…そうでしょう。貴女が私なら、そう思いませんか……。
そう、思いませんか。
―――…フロ…。
「―――…?」
…ハッと、ノアは顔を上げて、大きく見開いたエメラルドの瞳でぼんやりと辺りを見回した。
絶えぬ吹雪の音色に混じって、何処からか聞こえてくる大蛇のけたたましい咆哮。
その声に耳を傾け、風に乗って流れてくる強力な魔力の波を肌で感じて…。
飢えに苦しむどす黒いヨルンの魔力は、大気中を絶え間無く流れていて。
見渡す限りの黒い水面の中に、幾つかの異なる魔力が孤立しているのを感じ取った。
その中にある、とある一つの魔力。
独特で、異彩を放つそれは。
酷く懐かしい香がして。
「―――………フローラ…?」
朧げだった、懐かしい記憶の中の少女の笑顔が、その時初めて鮮明に見えた気がした。
地震の元凶を絶つために分身の身で城外に出た直後、さして遠くはない何処かで行われている戦闘の気配を、ノアは瞬時に感じ取った。
片方は言わずもがな、大蛇のヨルン。対するもう片方は…これは憶測だが、あのフェンネルの使いである二人あたりであろう。
厄介事はなるべく彼等に委ねておきたいのだが、あのヨルンが相手なのだ。一筋縄ではいかない。
(……分身の身体では、満足に魔術が使えませんが……無いよりマシ、か)
…可愛いヨルン。悲しいけれど、可愛いあの子の命をこの手で絶つ決意は固めたのだが。
………自分でも驚くほど弱ってしまった今の力で、果たして勝てるだろうか。
この手はあの子の息の根を、止める事が出来るだろうか。
…酷な事であることは分かっている。
けれどヨルンは、自分が愛情を注いだ生き物。
自分が育てた、立派な大蛇。
育てたのが自分ならば、また殺すのも、外ならぬ自分でなければならない。
…そうでしょう。貴女が私なら、そう思いませんか……。
そう、思いませんか。
―――…フロ…。
「―――…?」
…ハッと、ノアは顔を上げて、大きく見開いたエメラルドの瞳でぼんやりと辺りを見回した。
絶えぬ吹雪の音色に混じって、何処からか聞こえてくる大蛇のけたたましい咆哮。
その声に耳を傾け、風に乗って流れてくる強力な魔力の波を肌で感じて…。
飢えに苦しむどす黒いヨルンの魔力は、大気中を絶え間無く流れていて。
見渡す限りの黒い水面の中に、幾つかの異なる魔力が孤立しているのを感じ取った。
その中にある、とある一つの魔力。
独特で、異彩を放つそれは。
酷く懐かしい香がして。
「―――………フローラ…?」
朧げだった、懐かしい記憶の中の少女の笑顔が、その時初めて鮮明に見えた気がした。


