亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

謁見の間から出られない今、分身でしか移動出来ないノア。
地震の元凶を絶つために分身の身で城外に出た直後、さして遠くはない何処かで行われている戦闘の気配を、ノアは瞬時に感じ取った。

片方は言わずもがな、大蛇のヨルン。対するもう片方は…これは憶測だが、あのフェンネルの使いである二人あたりであろう。


厄介事はなるべく彼等に委ねておきたいのだが、あのヨルンが相手なのだ。一筋縄ではいかない。

(……分身の身体では、満足に魔術が使えませんが……無いよりマシ、か)

…可愛いヨルン。悲しいけれど、可愛いあの子の命をこの手で絶つ決意は固めたのだが。
………自分でも驚くほど弱ってしまった今の力で、果たして勝てるだろうか。


この手はあの子の息の根を、止める事が出来るだろうか。



…酷な事であることは分かっている。
けれどヨルンは、自分が愛情を注いだ生き物。

自分が育てた、立派な大蛇。


育てたのが自分ならば、また殺すのも、外ならぬ自分でなければならない。





…そうでしょう。貴女が私なら、そう思いませんか……。

そう、思いませんか。







―――…フロ…。

















「―――…?」

…ハッと、ノアは顔を上げて、大きく見開いたエメラルドの瞳でぼんやりと辺りを見回した。

絶えぬ吹雪の音色に混じって、何処からか聞こえてくる大蛇のけたたましい咆哮。
その声に耳を傾け、風に乗って流れてくる強力な魔力の波を肌で感じて…。




飢えに苦しむどす黒いヨルンの魔力は、大気中を絶え間無く流れていて。
見渡す限りの黒い水面の中に、幾つかの異なる魔力が孤立しているのを感じ取った。


その中にある、とある一つの魔力。


独特で、異彩を放つそれは。






酷く懐かしい香がして。























「―――………フローラ…?」



















朧げだった、懐かしい記憶の中の少女の笑顔が、その時初めて鮮明に見えた気がした。