亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


しかしそれ以前に、自分達よりも先に大蛇を相手にしていた面々の中に、あのイーオの姿があった事が一番の驚きだった。
攻防を繰り広げていたのはほとんどトゥラのみで、車椅子を引くことしか出来ないイーオはその戦闘を眺めていただけだったが…彼女の存在が何を意味するのか、大蛇は何故か落ち着かない様子でイーオに近寄ろうとしない。

故に、彼女の傍は安全地帯だった。

本能的に自分を避けていく大蛇を、イーオはじっと目で追い続ける。


「……あの子は少しばかり、魔力が強過ぎるの。…ヨルンの起こす地震が、お城の結界を弱らせてしまうのも…時間の問題かしら…。…そうなると……あの人もてんてこ舞いね」

「…仕留める術をご存知なのですか、御婦人」

イーオの背後に降り立ったジンが、とぐろを巻いて咆哮する大蛇から視線を外さずに呟いた。
終わりの見えない攻防で削られ、目茶苦茶になってしまった無残な針山地帯を舞台に、イブとリスト、そしてトゥラが目にも止まらぬ早さで動き続けている。

だが、大蛇のあまりの凶暴さ故に防御に徹する他が無い。敵の衰えが、全く見えないのだ。



「ヨルンは治癒能力を持っているから……生半可な攻撃を続けていてもキリが無いわ。…お腹が空きすぎて痛みも感じていないみたいだし……もう気絶なんか、しないんじゃないかしらねぇ…」

相も変わらずのんびりとした口調で話すイーオだが、内容自体は的確だ。
自己治癒能力があるとなると、戦闘がやけに長引くのも頷ける。
手っ取り早く終わらたいところだが…こちらには術という術が無い様に思える。


「……ねぇ、眼帯の貴方。…私はね…こう見えても、あの子の育ての親の一人なの。………可愛い子供の不始末は、親が拭ってあげるものでしょう…?」

吹雪に髪を靡かせながら、にっこりと微笑むイーオを横目で見遣り…ジンは、彼女にしか聞こえない声で囁いた。


「………背に腹は変えられません。…貴女の話に参じましょう」

「……ええ。そうしてもらえると、有り難いのだけど………でもね、貴方が優しい人だと…ちょっと困るの」

「………どういう意味でしょうか」