目に見えなくとも、吹雪諸共切り付けてくる凶刃の如き一撃の所在は、その強烈な気配だけで感づくのに事足りた。
身を翻し、背の高い樹木を蹴って跳び退けば、たった今足場にした太い幹が見えない衝撃で粉砕した。
胴体を失った大木の大きな頭が崩れ落ちていく様を、吹雪越しに眺めるのも束の間。
…ぼんやりと光るぎょろついた目玉が急接近してきたかと思うと、目と鼻の先に巨大な口が現れた。
凄まじい飢えに苦しむそれは、格段に速さを増している。
身をよじって寸前で躱すしかないと判断し、体勢を変えようとしたが……その背中を、突如介入してきた仲間によるまさかの不意打ちが襲った。
「―――に゛ゃぁっ…!?」
真下に向かって思い切り、蹴られた。
そのまま落下するイブの頭上を、半透明の大蛇の巨体が通り過ぎていく。
…それは結果的に大蛇の襲撃を避ける事が出来たのだが…無傷ではない。背中が痛い。結構痛い。
痛みを堪えて積雪になんとか着地したイブの正面に、背中に蹴りを入れてきた張本人…否、張本犬が何食わぬ顔で降り立った。
スラリとした毛並みの美しい漆黒の猫…生意気なトゥラに、戦闘中にも関わらずイブは罵倒を飛ばす。
「…痛い!痛いよ馬鹿!!後ろ脚で、蹴るとか…!もっと優しくしてよ!!」
「………」
「…今、鼻で笑ったでしょ!?…っく…!バーカバーカ!!トゥラバーカ!!」
「うるせぇよお前!!」
喧嘩にもならない、一方的にイブが喚いているだけの相容れない獣同士の対峙に呆れつつ、リストは剣を構えて大きく跳躍する。
城に潜入するローアンと一時別れ、始終地震を起こしている大蛇の本体を片付けるべく、イブ達は城から少し離れた場所に広がる森林と針山が混在した地帯に向かったのだが…。
最初に遭遇した時よりも、蛇の狂気は増していた。
猛吹雪が邪魔をする最悪の視界の中。いくら敵が巨大といえども、その身体は半透明なのだ。
寒さで鼻も耳も利かないし、一向に温まらない身体の動きはぎこちない。
よろしくないコンディションでの、この大蛇の相手をするのは命懸けだった。


