亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

溢れんばかりの殺気を隠そうともしないユノの瞳は、背後の離れた場所にポツンと孤立する雛鳥の影を捉えた。
汚れを知らないつぶらな瞳は、ユノとレトの二人を何度も交互に映し、小首を傾げている。

「………ああ…すっかり忘れてたよ…お前の事…。………アルバス、お前は関係無いんだから……邪魔しないでよ…」

今この場がどれほど危険なのかなど知るよしも無く、短い歩幅でこちらに歩み寄るアルバス。
疑心も警戒心も何も無い無垢な雛鳥の姿は、相反するユノの目にどう映ったのだろうか。

以前の様に雛鳥に向けていた愛情は、その赤い瞳には欠片程も無い様だった。レトに向ける程の憎悪は無いが、多少の欝陶しさを覚えているらしい。

寸前までレトに突き付けていた剣を握ったまま、ユノは無言でフラリとアルバスに踵を返した。
その沈黙にただならぬ気配を察したレトは、硬直する身体を動かそうと躍起になる。

嫌な予感しか、しない。今のユノは、アルバスの知っている彼ではないのだから。

「…駄目、だって…アル、バス…!………ユノ…止めて!……アルバスは関係無いよ…関係無いって…言ったじゃないか…!」

前を遮るもの、呼び止めるもの、目に映るもの……全てが、忌ま忌ましい。
直後にこちらに振り返った赤い瞳が、そんな黒々とした叫びを上げている様に見えた。


「………うるさい。…うるさい、うるさい!…僕に指図するんじゃない!…お前は今の自分の立場が分かってそんな事を言っているのか?…本当、相変わらずお人よしだね………苛々、するよ。…お前の、そういう優しいところを見ていると……僕が、どれ程汚いのか、分かって、物凄く、物凄く………不愉快だ…」


一度遠ざかろうとしていた彼の歩みが、再びゆっくりと距離を詰めてきた。言葉に出来ない、彼の醸し出す不穏な空気が近付いてくるのを感じながら、レトは身体を浸す己の血の臭いにむせ返り、何度も苦しそうに咳込み……無意識で、笑みを浮かべた。


血や涙、埃で汚れた自分の姿は、さぞや無惨なものなのだろう。