亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


「駄目じゃないか、レト。………僕は…本気なんだから」

冷ややかな声が、歩み寄るただ一人の足音と共に距離を詰めてきたかと思うと……途端、左腕の傷が再び激痛を訴えた。

「…っあああ…!?………あ……あぁ…っ…!」


痛みを堪えようと噛み締める唇から、苦い血の味が広がった。
床を這う氷の魔の手が、左腕の傷口を圧迫しているのが分かった。不躾な冷たい手は、傷口を無理矢理覆っていく。
苦痛を逃そうとする身体の叫びは、堪えても堪えても、どうしても漏れてしまう。

「………僕は、決めたんだ。君も、決めた筈だ。…そうだろう?………だったら、君は本気にならないと。………本気で、僕を潰しにかからないと。………もう一度だけ言うよ………僕は、本気だから…。………………君が、邪魔をするから…」



―――カラン…。


金属の鈍い重低音が、すぐ耳元で鳴り響いた。
幸いにも頭はユノの方に向いていたため、彼の動きを見る事が出来た。

限られた視界。
彼の足元ばかりが見える世界で…今しがた自分が落とした剣がゆっくりと横切っていくのが見えた。

「…剣って、こんなに重いんだね。片手で振り回して…凄いね、狩人は。………物騒で重いから…手に持つ事なんて一生無いと思ってたのに………………まさか触らないといけない時が、来るなんて……しかも…」






親友の、君を相手に。














最後に紡がれたその一言だけは、酷く悲しみに浸った泣き声だった。
彼が、どんな思いでその剣を握っているのか分かってしまうのが、辛かった。








ああ、駄目だ。

駄目なんだ。



僕は、死んじゃ駄目なのに。
ユノを泣かせたくなんかないのに。

ああ、どっちだろう。どっちも本当で、もう訳が分からない。

駄目。駄目。


でも、この身体、僕の身体、ちっとも動いてくれない。



見上げればきっと…ユノはまた、泣いている。


ばれない様にしてはいるけれど…啜り泣きが、聞こえてくる。

聞こえてしまう。