「駄目じゃないか、レト。………僕は…本気なんだから」
冷ややかな声が、歩み寄るただ一人の足音と共に距離を詰めてきたかと思うと……途端、左腕の傷が再び激痛を訴えた。
「…っあああ…!?………あ……あぁ…っ…!」
痛みを堪えようと噛み締める唇から、苦い血の味が広がった。
床を這う氷の魔の手が、左腕の傷口を圧迫しているのが分かった。不躾な冷たい手は、傷口を無理矢理覆っていく。
苦痛を逃そうとする身体の叫びは、堪えても堪えても、どうしても漏れてしまう。
「………僕は、決めたんだ。君も、決めた筈だ。…そうだろう?………だったら、君は本気にならないと。………本気で、僕を潰しにかからないと。………もう一度だけ言うよ………僕は、本気だから…。………………君が、邪魔をするから…」
―――カラン…。
金属の鈍い重低音が、すぐ耳元で鳴り響いた。
幸いにも頭はユノの方に向いていたため、彼の動きを見る事が出来た。
限られた視界。
彼の足元ばかりが見える世界で…今しがた自分が落とした剣がゆっくりと横切っていくのが見えた。
「…剣って、こんなに重いんだね。片手で振り回して…凄いね、狩人は。………物騒で重いから…手に持つ事なんて一生無いと思ってたのに………………まさか触らないといけない時が、来るなんて……しかも…」
親友の、君を相手に。
最後に紡がれたその一言だけは、酷く悲しみに浸った泣き声だった。
彼が、どんな思いでその剣を握っているのか分かってしまうのが、辛かった。
ああ、駄目だ。
駄目なんだ。
僕は、死んじゃ駄目なのに。
ユノを泣かせたくなんかないのに。
ああ、どっちだろう。どっちも本当で、もう訳が分からない。
駄目。駄目。
でも、この身体、僕の身体、ちっとも動いてくれない。
見上げればきっと…ユノはまた、泣いている。
ばれない様にしてはいるけれど…啜り泣きが、聞こえてくる。
聞こえてしまう。


