亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

頭の中で、狩りをする直前にいつも唱えているあのお祈りが、淡々と流れていく。

ああ、これは、狩りなのか。


小さい頃、狩りを学ぶ際に父さんから一番最初に教わった事が、ふと頭を過ぎった。


―――狩りは、始めれば最後。決して躊躇っては、いけない。







躊躇っては、駄目なんだ。絶対に、駄目。
駄目なのに………僕の馬鹿な頭は、やっぱり考えてしまう。




………僕は、彼を、狩ろうとしているのか。










「―――っ…!?」

獲物の頭上目掛けて振りかぶろうとした右手の剣は、一瞬だけ、言うことを聞いてくれなかった。

緊張の糸が、プツンと音を立てて切れる。
しまった、と見開いたレトの目に……こちらを見上げるユノの赤い瞳が、飛び込んできて…。





「何を躊躇っているのさ」


―――ブワッ…と、視界が一気に明るくなる。
ユノを中心に、たくさんの小さな魔法陣がドーム状に囲んで現れたのだ。
全てを拒絶する青白い光は、闇夜をいとも容易く打ち払う。
許容範囲を超えた眩しさに思わず目を瞑ったレトは、受け身も取れぬまま魔法陣の壁に跳ね返された。

「……ぐっ…!?」

その衝撃は、ただ壁にぶち当たった時の痛みとは桁外れのもので、触れた手足の至る箇所が凍り付いていた。


再び床に転がり落ちたレトは、直ぐさま目眩がする顔を上げて意識を集中させる。
反動で落としてしまった剣が、すぐ横に横たわっているのを見付けて、レトは手を伸ばした。


だが………その手が、ピクリとも動かない。

(…どうし…て…!)

いくら力を入れても、唯一の右手は指先さえも震える気配が無かった。しかもそれは、腕だけに限らない。
気付けば、両足、胴体と…ほぼ全身が、死体の様に動かなかった。

…サアッと、自分の顔が蒼白になるのが分かる。
焦燥感に伴い、動かぬ身体は手足の先からとてつもない寒気が染み渡るのを感じた。


これは、何だ。

まるで…身体が内側から凍っているみたいだ。



(……今さっきの…魔法陣が…)


あの光に触れたせいだろうか。今思い出せば、模様も何処か違った気がする。