手の平にちょうど収まるサイズの丸くて暖かい小さな影は、鳴き声どころかいつもの鼻歌も口ずさもうともせずに、こちらに歩み寄って来ていた。
痛みで呼吸もままならないせいか、上手く声が出せない。
だから、微かに首を降って駄目だよと、来てはいけないよと、拒絶を見せれば……雛鳥は素直に立ち止まった。
それで、いい。
利口だね、アルバス。
アルバス。お前は、逃げていいんだよ。
背を向けて何処かに逃げてくれる事を祈ると、レトは改めて目の前に佇むユノを見上げた。
目先で絡む前髪が、赤く濡れていた。
「……僕が、王になるんだ。…君じゃなくて、僕だ。………だから僕は、僕のために、君を消すんだ…。……君は、僕をさぞかし恨むんだろうね………でも、仕方ないのさ」
不意に、ユノがレトを指差した。
華奢な人差し指を中心に、見飽きた魔法陣が回り始める。
だがレトの視線は、目と鼻の先に浮かび上がった凶器を通り越して、ただユノ一人を見上げていた。
激痛のせいなのか、何なのだろうか。
突き付けられた死の恐怖を、馬鹿みたいにぼんやりと見詰める自分が、ここにいる。
ただじっと。
じっと。
彼を見詰めるのに、必死な自分がいる。
胸の奥から、何かが沸き起こってくる。外に出たくとも出られなくて、がむしゃらに叫んでいる。
それが何ていう感情なのか、僕は知らないけれど。
「…僕が怖いから、泣いているのかい?」
「………ううん。………………ユノが、泣いているから」
どす黒い殺意が渦巻く赤い瞳から、ポロポロと。
それはそれは綺麗な雫が流れ落ちて、彼の顔を濡らし、ぐしゃぐしゃに歪ませていた。
向けられている敵意とは裏腹に、弱々しく泣いている彼を見ていると…いつの間にか、僕は泣いていた。
お互いに、子供みたいに泣き合ったあの時間の記憶が、脳裏を掠めた。
状況も、立場も、取り巻く環境は何もかも違うけれど。
二人で悲しみを共感しあったあの時の涙に、似ている気がした。
「………僕…全然恨んでなんかいないよ…」


