肌を刺すのは極寒の冷気と、氷のつぶてを含んだ一陣の刃物の如き風。
全身を切り刻む冷たさと痛みを同時に感じた時には、レトの視界はいつの間にか反転していた。
ぐるりと移り変わる景色。目に映る世界からは、上も下も判断がつかない。方向が、分からない。いつもなら、直ぐに身構えて受け身を取ることが出来る筈なのに。
頭が、身体が、追い付かない。
…だって。
……だって、ユノが………泣いて……。
「―――ぐぁっ……!?」
衝撃を最小限に抑える術を熟知していた筈の身体は、冷たい大理石の上に背中から落ちた。
一瞬、息が止まった。
その反動でフードから小さなアルバスが飛び出したのが、視界の端に見えた。
痛む身体を捩り、上半身だけを起こして辺りに目をやれば、空間に伴って曲線を描く柱と壁の小さな隙間に、起き上がろうと羽をばたつかせる雛鳥の姿があった。
丸い身体をどうにか起こし、そのままレトに駆け寄ろうとするアルバスに、レトは小さく首を振る。
「………駄目だよ、アルバス…危ないから…駄目………………っうぁ…!」
チチチ、という小さな鳴き声に重なって、レトは突然の痛みに声を漏らした。
青白い魔法陣の光が前方から差し込むと同時に、あの“嵐”に似た破壊力の突風の塊が、レトをいとも容易く吹き飛ばす。
風圧は凄まじく、まるで木の葉の様にレトは押されるまま、床や柱に身体を叩き付けた。
「…痛いの、レト?」
激しく打ち付けた身体は、多量の打撲やら切り傷やらで悲鳴を上げていた。地味な痛さも、増えれば地味でも何でもない。ただの激痛に成り代わる。
擦り切れたマントは、いつの間にか脱げ落ちていたらしい。ゆっくりと見開いた先の視界に、ぼろ雑巾の様に横たわるそれが微かに見えた。
ぎこちない動きで身体を起こし、乱れた髪の隙間から、こちらを見下ろす少年を…見上げた。
「………僕も痛いよ、レト。…僕も、痛いんだよ。…本当…君なんかに……会わなきゃ、よかったよ…。…君が…君じゃなかったら…君なんかいなかったら………」
「………」


