亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


彼は一体誰に、恐怖を覚えているのか。
完全にその誰かとローアンを重ねてしまっているらしいユノは、先程までレトにのみ向けていた憎悪の矛先を、一気にローアンに変えた。

「―――…消えて!…消えろ!!」

歪んだ空間に、ユノの泣き叫ぶ様な声と耳をつんざく高周波の如き不協和音が反響した。
密閉された中での、魔獣エコーの歌声に似たその音色の威力は凄まじいもので、耳が千切れてしまいそうだった。

突発的且つ予想外な攻撃に、二人は思わず耳を塞いだ。
そんな本の一瞬だけ生じてしまった僅かな隙を、独走するユノの強大な魔力は見逃してくれないらしい。

カッと青白い一筋の閃光が視界を眩しく照らしたかと思うや否や、目にも止まらぬ早さでこちらに伸びてきた手の衝撃によって、レトは後方に押し出されていた。
受け身が取れずに尻餅を突いたレトは、すぐ目の前で展開される凄まじい異なる魔法陣同士の対峙に直ぐさま目をやる。

数メートルの両者の距離を埋めるのは、床を一直線に走る氷柱の列だった。
高い天井辺りまである氷柱の走った軌跡は、ローアンのすぐ目の前で静止していた。彼女の足元に目をやれば、そこには緑色に輝く別の模様の魔方陣が一つ。何処から湧いて出てきたのか、絡み合った網目状の樹木の枝が壁となり、氷柱の突進からローアンを守っていた。
…だが、それも咄嗟の一時凌ぎの防御であり、完全にユノの攻撃を制止出来ている訳ではない。ユノの足元に浮かぶ青い魔方陣が徐々に光を増していくのと同時に、氷柱は樹木の壁を押し返そうと勢いを増していくのが目に見えて分かった。

…そしてもう一つ分かったのが、両者の魔術の、明らかな力の差だった。

ローアンの足元に見える魔方陣が、光を失っていく。



こちらが劣勢なのは、明らかだった。




「………チッ…」

ローアンの前方に翳している手の平を中心に、鮮やかな緑を帯びた大きな魔法陣が浮かび上がっている。
複雑な模様と古代文字の群れが正円の中でゆっくりと回転しているが、それも徐々に薄らいでいた。

魔力から生じる風圧に髪を靡かせながら、ローアンは自分の不甲斐なさに舌打ちをした。