亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

また、目下の大地が大きく揺れた。

時間が無い、と言葉を漏らし、ローアンは静寂が漂う暗がりを見回す。

「………何故アレスがお前を選んだのか、それは最早神のみぞ知るところであり……理由は分からない。だが一つだけ言えるのは、それが絶対であるという事だ。……幼いお前にとって直視するには辛過ぎる現実かもしれないが…。……………幾らでも、非情だと罵るがいい………私はお前を玉座に連れていく」

「…っ…そんな…!」

言うや否や、革手袋に包まれた華奢なローアンの手がレトの目前に差し伸ばされた。
有無を言わせない鋭い眼光に竦み上がりながら、レトは思わずその手を払い退けた。

…王という頂点に立つ存在に刃を向けるなど…きっと許されない行為に違いないのだけれど、恐怖に似た色んな感情に突き動かされたレトは、無意識で拒絶の意味を表す剣を構えていた。
覚束ない足取りで後退しながら、震える唇を動かす。


「………嫌だ……僕…僕は…僕……王になんてならない…。……僕は、ただの狩人だもん………王様はユノだよ………僕は、ユノを王様にするんだ……ユノと約束したんだ…!叶えに来たんだ…!」

「私はこの国の王となる者を捜しに来た。…そして神はお前を選んだ。………故に私は、お前を王にしなければならない。…何としてでも、だ」

「…………ユノを、殺すの…?」


何としてでも…という最後の言葉に過敏に反応したレトは、怯えに加えて明確な敵意を瞳に宿し、ローアンを睨み付けた。
突き付ける剣の切っ先が、微かに震えている。

「貴女の事なんか……そんなの…知らない!……関係無い…!……どうして?…貴女もやっぱりバリアンと同じ悪い人なの?…強くて優しい…父さんと似ている目をしているのに…どうして?………王様がそんなに大事なの?神様のお告げならユノを殺してもいいって言うの?………何で?…何でそんな風に冷たくなれるの!」



涙の膜を通して見えるその人のスカイブルーの眼差しには、人間らしい温かみのある感情など無いように思えた。