胸中で激しく渦巻く訳の分からない衝動に耐え切れなくなり、とうとうレトの涙のダムは決壊した。
温い大粒の雫をポロポロと落として、レトはしゃくり声を上げた。
王様?…国?…世界?
………そんなの、分かんない。凄く難しくて、分かんない。
どうでも、いい。
僕は。どうでも。どうにでも。
「だったら、僕が死ぬ…。………僕…ユノに死んでほしくない…。……僕はユノを王様にするって…ユノに言ったんだ。………だから、いい。僕が、いなくなった方が…!」
「……貴方は…」
ユノがいなくなるくらいなら、僕が。
だってユノは、今までも、そしてこれからも、僕が守るとっても凄い王様で。
僕の、初めての、大切な。
僕の、たった一人の。
親友だから。
「……ユノは、死んじゃ駄目……だから、僕が………!」
「それは愚考でしかないぞ、狩人」
それは、突然だった。
音も気配も無く、聞き慣れぬ第三者の声はいつの間にかレトの背後をとっていた。
全く気配を察知出来なかったレトは、咄嗟に脇へ転がり込み、剣を抜いて声の主がいるであろう暗がりに向かって身構えた。
…本当に、いつの間に。
息を殺して警戒するレトだったが、対する相手からは敵意を感じられない。しかし、その視線は妙に鋭い。
一体誰なのか…と困惑する最中、大理石の床を蹴る軽い靴音が響き渡ったかと思うと、声の主はゆっくりとぼんやりとした月明かりの下に現れた。
そこにあったのは…美しいお日様の色。綺麗な、金色。
最初にレトの瞳が捉えたのは、闇に眩しく映える金髪だった。次いで目に止まったのは、金の内に覗く空の淡い青色。
…漆黒の衣服を身に纏った、細身の女性がそこに佇んでいた。
その美しい色合いの容姿に、何処か見覚えがある。
「………貴女…は…」
記憶の糸を辿れば、その女性の姿が朧げながらも確かに存在していた。
…そうだ…あの、バリアンの襲撃の夜に…会った…。
(……フェンネル、の…)


