「―――嫌だ…!!」
それは、衝撃的な言葉だった。…彼を…ユノを殺す?…何故?何故彼を殺さねばならないのだ。
…そんな事、たとえ嘘でも聞きたくない。
目尻から溢れ出しそうな涙を強引に拭い取り、レトは半ばヒステリックに陥りながら微動だにしないノアを見上げた。
「…何で……………そんな事、言うの?…何で…何でなの?…ユノを…殺す?…ユノは…ユノは何も悪くないよ…」
「今この城は、完全に彼の魔力の支配下にあります。彼の暴走を止めなければ、新たなデイファレト王の即位は不可能です」
「…それなら、止めればいい…!……止めたらいいんでしょ?……それ、だけ……それだけだよ…そうすれば……ユノを…!」
「―――貴方、死ぬおつもりなのですか?」
…グッとノアがその長身を屈めたかと思うと、相変わらずの冷たい眼差しを送ってくる半透明の顔が、レトの目と鼻の先にまで近寄っていた。
思わず口を噤むレトの揺らめく瞳を、エメラルドの美しくも悍ましい宝石の如き眼光がじわりと射抜く。
「………………彼を止める事が出来るのは、彼の願いが叶った時。それは則ち………貴方の死なのですよ、レト。………王子の、彼の自我は今……狂気に捕われてしまっています。……狂気を目にした彼にはもう……貴方の声など…届かない。…分かりますか、レトバルディア…。……………彼を止める術は、貴方の死か彼の死の、どちらかしかないのです」
時間が無い。
時間までに新王を迎えるには、ユノの魔力の暴走を止めるしかない。
暴走を止めるには、根源となっている彼の殺意の的であるレトが死ねば、事はおさまるだろう。だがしかし…。
「…次の新しき王となられる貴方が即位もせずに死ぬというのは……神のお告げに反する事。…それだけは、あってはなりません」
他に術は、無いのだ。
だから、彼を。
「………でも……嫌…」
「レト…」
「…僕……僕は、違うから…いい…。………僕なんかが王様だなんて間違ってる…!王様はユノだもん…だから…!」


