亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~






この閉鎖された空間に、何処にも逃げ場など無い。追跡者の目に止まらぬ様に、耳に届かぬ様に、闇に身を潜めて息を殺しておかねばならないのに。
生まれながらに狩人のこの身体は、忍ぶとはどういう事なのか…拭っても消えない程、その技が身に染み付いている筈なのに。



分かっている。分かっているのだ。
けれども………そんな事を聞いてしまったのに、どうして声を上げずにいられようか。
どうやって冷静になれと言うのか。


どうして。









「―――…嫌だ」

「……レト…」

「…嫌だ」

「………致し方ないのです」

「嫌だ…!」

「他に術が無いのです」

「嫌だ!…嫌っ……そんなの…!」


一方は至極冷静だが、対するもう片方は潜んでいる事など忘れて喚き散らしていた。
温度差のある二人の会話が、暗い大広間に何度も響き渡る。

立ち並ぶ太い柱の傍らで続けられる言の葉の渡し合いは、どちらも相容れないせいか一向に終わりが見えない。
…しかし、それもその筈だった。
ノアの意見に対し、素直に頷く事が出来る筈がないのだから。

嫌だ、嫌だ…と今にも泣きそうな震える声で断固拒否を繰り返すレトは、聞きたくないとばかりに両耳を必死に塞いだ。

それでも、何処か冷めている無機質なノアの声が聞こえてしまう。
近寄らないで、あっちに行ってと腕を伸ばすが、透けたノアの身体は色付いた空気同然で、レトの手は虚しく冷気を掻き乱すだけだった。

震えるレトを見下ろす視線は、やはり冷たい。
致し方ないのだ、冷酷にならなければならないのだから。
全てに翻弄され、困惑するこの幼い子供に…ノアは再度現実を突き付けるかの如く、はっきりと断言した。




…時間が、無いのだ。
神の定めた時の限界が、近付いている。



新たな王の君臨を、叶えなければならない。



早く。

早く。







だから。




そのためには。




























「王子を…ユノマリアンを………………殺さねばなりません」