亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

―――突然、兵士の手が己の腰の剣を抜いた。

鈍い光沢を放つそれは持ち手の意のままにゆっくりと空を切り、そして。


ウルガの目の前で、彼は何の躊躇いも無く己の首を掻き切った。


「―――っ…!?」

予想だにしていなかった衝撃的な光景を前に、ウルガは息をのんで思わず後退した。
音を立てて床に崩れ落ちる兵士と、主の血肉で汚れた剣。自決で出来た深い切り傷から、真っ赤な鮮血が噴き出ていた。

今の展開にも頭がついていけていないというのに…今度はこれだ。
仲間の奇妙な生死の移り変わりを目の前で目撃したウルガは、もう何が何なのか分からないと酷く混乱せざるえなかった。

…今、何が起こった? 何故自害したのだ?


整理がつかずにグルグルと捻れていく思考回路。真っ白なのに、痛みだけは健在する頭を抱え出したウルガの耳は、声変わりをしていない幼い王子の声を捉えた。


ウルガと同様に、兵士の酷い有様の始終を見ていた筈のリイザだったが、彼の声は酷く冷静で、冷めきっていて………そして、ウルガを驚かせた。






「―――………ケインツェル」



行方不明の側近の名前をポツリと漏らしたリイザ視線は、暗い空間が続く廊下に注がれていた。
ウルガは反射的に剣を抜き、そしてログは杖を構えた。



…数秒の間を置いて、ゆっくりとした単調な足音が、近寄ってくるのが分かった。
ぼんやりとした明かりだけが頼りの暗闇の中に、同じ黒は黒でもぼやけたシルエットが一つ。揺れ動きながらそれは徐々に大きくなり……やがて、嫌気がさす笑い声と共に、明確な姿を光の元にさらけ出した。


姿を見ずとも、その癇に障る笑い声でそれが誰なのか理解出来る。そしてそのにやけた不気味な笑みを目にすれば、あのいつも感じる不快感が、こんな時でも通常通り沸き起こってくる。

謁見の間に現れた男は、奥で横たわる老王の死体を見てにんまりと笑った後、自分を睨み付けるリイザに少々大袈裟に深々と頭を下げたのだ。











「―――お呼びですか王子?…捜す手間が省けましたでしょう?…フフフフフフ!」