亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


我が弟が自分を見るあの目に、尊敬の念などという大層なものが無い事など、アイラには分かっていた。それは物心ついた頃から。彼が自分に注ぐ視線がどういうものなのか。どんな目で見ているのか。
今も、そうだ。

あれは、兄である自分を常に見上げながら、見下していたのだ。それは憎らしい視線。自分はこの弟に怒りを覚えても、不思議ではないのに。

「…どうでもいいんだ、リイザ」

「………何…?」


笑みを含んだその呟きに、リイザは眉をひそめた。…途端、アイラは更に一歩前進すると共に、不意を突く様にログの杖を強引に掴み、矛先を脇に逸らした。
思いがけないアイラの強行に対し、ログは咄嗟に魔術を発動させたが、振り払われた杖から生じた衝撃波は大きく外れ、そのまま壁をぶち抜いた。

威力は凄まじく、謁見の間の厚い壁には夜空が覗く大きな風穴があっという間に生じた。生暖かいけれど冷たい、夜の奇妙な風が吹き抜ける。

ログは素早く後退するや否や長い杖を構え直し、アイラに向かって再度衝撃波の塊を放った。
アイラは避けようともしない。
当然、容赦無い一撃はもろに命中し、アイラは大きな風穴の手前にまで吹っ飛ばされた。

主への暴挙を前に、忠誠心から思わず駆け寄ろうとするカイだが、ログの杖がそれを遮る。
…十八番の魔術が使えないのならば、カイには打開策が無い。ただ悔しげに奥歯を噛み締めて、下等なログを睨み付ける事しか出来ない。


「……そう…どうでも…いいんだよ」

殺伐とした空気の中で、また含み笑いが響き渡る。埃塗れの床に叩き付けられた身体に鞭を打ち、アイラはゆっくりと立ち上がっていた。

乱れた髪を整えようともせずに、アイラはただ言葉を続ける。
弟を見上げるその瞳には、恐れや焦燥感といったものなど一切見付けられない。
ただ自分に優しく、笑っているだけだった。






「………父上が崩御された今だから、言える事だけどね…。はっきりと言ってしまうと………………私は、王になる気などさらさら無いのさ。国だとか地位だとか、領地、財産など…………最初から…そんなものに興味は無い…」