双方異なる無表情と笑顔のこの兄弟。
お互いの腹を探り合うかの様な奇妙な会話を、ウルガはただ黙って聞いていた。
他人が介入してはいけない、そんな空気が二人の間に漂っている。……気持ちの悪い汗が、頬を伝った。
「………兄上は、お聞きにならないのですね。…………私の…所業の理由を」
ログの突き付ける杖の先が触れるか否かという寸前で、アイラは足を止めた。小柄な彼女からは冷たい無機質な殺意をピリピリと感じたが、アイラの意識はただ一つ。こちらを見下ろしてくるまだ幼い弟のみに注がれている。
「…そうだな。………弟が反逆を企て、国王である実の父親をその手で殺めたというのは……前代未聞の事件だが…。………確かに、お前の犯した所業の理由は知らない。…だがね……」
…フッと、アイラが浮かべていた笑みが、意地の悪いそれから……柔らかな微笑に変わった様に見えた。
微かな変化と同時に、アイラは静かに口を開く。
「…いつかはこうなると……思っていたよ」
お前は知らないだろうが、私はお前の事をよく知っているのだから。
お前は私を兄と認識はしていても、兄として見ていなかったかもしれないが。
私は、違う。
「………分かっておられたのならば…何故兄上は私を放っておいたのですか?………まさかとは思いますが…兄上も企てるおつもりだったのですか?…私に汚れ役をと」
貴方が…?
そう言って、リイザは小馬鹿にした様にアイラを鼻で笑った。
彼の言う事は、一体何処まで本当なのやら。
道化士よりも道化士らしく、女の事ばかり考えている楽観的な男。
見目麗しい端整な顔立ちをしてはいるが、王子としての品格ははっきり言って皆無。遊び人同然なのだ。
ただ、厄介な程ずる賢いのは認める。能ある鷹は爪を隠すという言葉は、最も彼に相応しい。
そんな男が、反逆などまず考える事も無いだろう。
………こうなると思っていた、など…後からなら何とでも言える事だ。
………敬愛する兄上、私の兄上様。
愚かな、兄上様。


