怖くて、怖くて、仕方ない。味方が持つ剣も槍も弓も。
自分を傷付ける可能性のある刃の輝きが、怖い。
怖い憎い怖い…憎い。
………憎くて、仕方ない…筈なのに。
(………)
…何故だろうか。
今この身を貫いているこの鋭い刃は………怖くも何とも無い。
何故だろうか。
これは、この与えられた痛みは…。
(………随分と…久しい…)
剣を手に懐に飛び込んできたまま微動だにしないリイザ。
そんな息子の姿を見下ろしていると、実は彼をこんな近くで…しかもこの手で抱いたのが随分と久しい事に気が付いた。
最後に抱き締めたのは、一体いつだったか。
恐らく、まだ赤子の時。 その後は乳母に任せっきりで、長男のアイラの教育ばかりに構っていた。
成長していく姿を、遠巻きに眺めていただけだった。
自分は今まで、この子を、ちゃんと見た事があっただろうか。
「………………いつの間に…こんなに……………大き、く…なっ……て」
これは、この痛みは、きっと………報いなのだ。
この子の刃は、この子の言葉なのだ。
初めてだ。
この子が、自分に語りかけてきたのは。
返事が、したかった。
老王は次第に力を失い、リイザに身体を預けていった。痩せ細ったその老体を抱き留めたまま、リイザは鼓動が聞こえなくなっていく父の胸に頭を押し付け。
―――さようなら、父上。
誰にも聞こえないくらいの小さな声を口にすると…リイザは強引に老王の胸から剣を抜き取り、噴き出す返り血を全身に浴びながらも眉をひそめもせず。
何の躊躇いも無く、無造作に動かぬ父の身体を階段から蹴り落とした。
老王が転がり落ちていった跡に、歪んだ曲線の真っ赤な絨毯が描かれていく。
大理石の床で止まった時には、もうそれが誰なのか直ぐには判別が付かない程の血達磨と化していた。


