カッと大きく見開いた目を白黒させて、老王は増していく激痛と脱力感に反比例して激減していく全身の力を振り絞り…小さな我が息子の肩を、弱々しく掴んだ。
若い頃に比べて圧倒的に回転が鈍くなった頭は、凄まじい混乱も伴って、己に起きた惨劇を理解するのに時間を要した。
何が、起こったのだろうか。
暑いのに、感覚が無くなる程冷えていく全身を震わせて、老王は苦しげに息を吐いた。
突然、第二王子のリイザと、彼の魔の者であるログが謁見の間に現れた。
静かに歩み寄って来た幼い息子は読めない無表情のまま、何故か口を開かなかった。
何事かと訝しんだ老王は玉座から腰を上げ、リイザの元に行こうと階段の段差に一歩足を下ろした。
…そこからの展開は、あっという間だった。
リイザが腰元から鍵爪状の剣を鞘から抜いたかと思うと。
次に瞬きをした老王の眼前には、その小さな身体が目と鼻の先に見え。
気が付けば。
……自分の足元は、赤く汚れていた。
目下に広がっていく赤色のそれは、誰のものだ。
………ああ、これはわしなのか。
そうか。刺されたのか。
理解したのは、後から間を置いて急激に襲ってきた激痛からだった。
胸から背中に突き抜けている固い刃は、更に深々とこの身に減り込んだ。
心臓を突いている様だ。
我が息子ながらいい腕をしている…などと、この場にそぐわない親馬鹿な感想を抱きながら、まるで他人事の様にリイザを見下ろした。
「………何故、じゃ……リイザ…」
向けられる刃が、怖い。敵意が怖い。憎しみが怖い。
死ぬのが怖い。
最後にデイファレトに襲撃をした、あの日の夜。
自分の分身…無くてはならない掛け替えのない存在だったテナを殺されてしまった…あの夜から。
…自分は、酷く臆病な人間になってしまった。
テナを殺したあの魔の者が憎い。
だが、憎まれるのが怖い。
怖い。
注がれる視線の全てが、怖い。


