亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


凍り付いた岩だらけの大地。
モノクロの世界に等しい味気無いこの雪国の何処に、生命力溢れる植物なんぞが潜んでいたのだろうか。

何十、何百、何千もの蠢く木の根が、大きな谷の裂け目の至る所から顔を覗かせて縦横無尽に這いずり回っていた。
まるで、恐ろしく長い巨大な蛇が群れをなして絡み合っているかの様だ。
数え切れない程の根は、厚い雪を押し退けて闇夜に枝を伸ばし始める。
天に向かって、幾つにも枝分かれしながら。

目の前に広がる谷は、谷底から地上に至るまであっという間に樹木で埋め尽くされた。
その間、僅か一分足らず。雪景色の中に一つの大きな森が出来上がってしまった事実を、ローアン以外の三人はただただ眺めていた。


この国に極寒を招いた神の災いである永遠の冬季により、長きに渡って地の底で眠らされていた樹木。
それがローアンの魔術、『樹』の魔力によって半ば強制的に覚醒させられたのだ。


長い眠りから起き上がった木々の群れは、太陽の恵みが欲しい、喉を潤したい…と、枝を伸ばしてそこら中を駆け巡る。
日光は無く、暗闇しかないと分かるや否や…太い根っこが養分になるならば何でも構わないとばかりに、城から溢れ出る雪崩の海を貪り始めた。

根の先に空いている空洞に、大量の純白の雪崩がズルズルと吸い込まれていく様は…なんだか植物の生々しい生命力をかいま見ているようだ。


「この国の樹木は起こしてみれば元気がいいな。…良すぎるくらいだ。これでしばらくは、雪崩の危険は無いな。…三人共、何をボサッとしているのだ。置いて行くぞ」

そう言って、ローアンはおもむろに谷に向かって足を踏み出す。
彼女が進む先に細かな枝が絡み合い、吊橋の様な道を形成していく。


独り谷を渡って行くローアンにいち早くジンが続き、興奮気味のイブがその後ろに、そして未だに唖然と立ち尽くしていたリストがハッと我に返り、少し遅れて追い掛けた。




凍てついた枯れ木ばかりだったこの大地に、約五十年振りだろうか。
吹雪の中に、失われていた柔らかな緑が見え隠れしていた。