亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

寒さに身を震わせていたイブが、言葉を途切らせて不意に黙りこくった。…何事かと訝しげにリストが彼女を見遣った途端、一際大きな突風が前方から吹き付けた。
顔面直撃の雪を振り払い、再度彼女の姿を目で追えば………何故か、いない。

しかし次に鼓膜を震わせた馬鹿でかい声が、イブの居場所を知らせると共に………リストを仰天させた。




「―――隊…っ……長ぉぉー!!」



「え…っうえぇ…!?」



息をのむのも、無理は無い。
隊長って…!?、と予想外の人物の名前に慌てふためくリストを、素早い身のこなしのジンが半ばどつき倒す様に通り越していった。

顔面から分厚い積雪に伏したリストの呻き声を背に、ジンは暗がりの中に佇む高貴なる存在に深々と跪ずいた。

「―――御無事で何より。到着、御待ちしておりました………陛下」






「―――御苦労。頭を上げよ、ジン。…時は迫りつつある」

外したフードから漏れ零れた黄金の髪を靡かせたローアンが、風上に向かってマントを翻した。その場にいるだけでがらりと空気を変えてしまう偉大な存在に、吹き付ける吹雪も彼女を避けて走っている様に見えた。
敬愛する主にキビキビと敬礼をするジンに対し、イブはというと、その主の小柄な背中にべったりとしがみついて「隊長隊長隊長隊長…」と呟き続ける始末。はしゃぐ犬の様にハートを飛ばしに飛ばす彼女は、とてもご満悦の様だ。

はいはい、と呆れた声を漏らして腰にがっちりと巻きつくイブの手を剥がすと、ローアンは目の前に広がる雪の大滝…の向こうの真っ白な視界の先にそびえ立つ城に視線を移した。

「………王族の少年は…既に城にいるのだな?」

「はい。こちら二人の話ではその筈なのですが…しかし……何故か一向に、王の君臨の兆しが見えない状態です。加えてこの強大な魔力の放出………城内で何かあったのでしょう…」

「……世の中、何事も簡単にはいかないという事か。………どういう状況なのか皆目見当も付かないが、とにかく分かっているのは…時間が無いという事だ。急ぎ城へ向かう必要があるな」

そう…時間が無いのだ。
それが何なのかは分からないが…何かの時間を示している秒針がカチカチと歩み続けているのが分かる。
この感覚は、分かる者にしか分からない。