亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

結果的にユノからの逃亡は叶った訳だが、彼の魔術でここに辿り着いたのだ。直ぐに見付かってしまうだろう…長居は無用である。

「チチチチチ!」

「…アルバス、静かにしてね…」

呑気な雛鳥の歌は、無人の大広間の隅々にまで広がっていく。フードから顔を覗かせたアルバスを再び強引に押し込み、レトは冷え切った両手に湿った吐息を吹きかけた。

あの氷の手の様なものに叩かれてから、身体の感覚がなかなか戻らない。せめて手だけでもと両手を合わせて何度も摩ってみるが、いまいち効果が無い。……体温を奪われてしまったのだろうか。
…何にせよ、このコンディションのままでいるのは危険だ。何かあっても身体が動かないのでは話にならない。

(………でも…何処に行けば…)

この広い箱の中。行き場なんて無い。何処へ行っても結局出られないのだから。

…不安と共にじわじわとせりあがってくる絶望感を寒さで誤魔化し、レトは静かな大広間をぐるりと見回した。何処までも永遠に続いている様な気さえ覚えるこの暗闇の、一体何処に向かうべきか。
いつ来るか分からない追手の危機の到来に警戒しつつ、独り顔をしかめて思案するレト。




「―――こちらにお出ででしたか」

「―――っ…!?」

…そんな神経を尖らせていた最中に、頭上から予想だにしていなかった他人の声が降ってきたのだから、レトは一瞬息を詰まらせた。反射的に顔を上げると、アーチ型の美しい天井を背景にしてそこにいたのは、素敵な笑顔を浮かべる知り合い。

……緑の美しい長髪を漂わせてフワフワと宙に浮かぶノアの姿があった。だが、なんだかその姿は色素がやけに薄いというか…そう、半透明で透けて見えた。

「………ノア…」

「気を緩めてはいけませんよ、レト。……王子の魔力がいつ貴方の気配を察知してここに及ぶか分かりませんからね。それに、申し訳御座いませんが………今の私には貴方を救う手立てがありません」

溜息混じりにそう言いながらやれやれと自嘲的な笑みを浮かべるノア。
ノア曰く、ユノの白の魔術の威力はあまりにも強大で、ノアの魔力ではどうにもならないらしい。