身体の芯を揺さぶる鈍い痛みと冷たさが、レトの意識を一瞬何処かに追いやった。
吹っ飛ばされた身体は何の反応も出来ずに勢いをそのままに空を切り、天井から伸びた太い氷柱に背中から衝突した揚げ句、力無く床に伏した。
転がり落ちた場所は、床は床でも急な斜面となっていた。
加えてそこは全面が凍てついており、斜面と摩擦ゼロの氷上という組み合わせの条件から、必然的に……レトの身体は重力に押されて斜面を滑り落ちていった。
歪んだ空間。このまま滑って、何処に辿り着くのか。
慌てて冷たい斜面に剣を突き刺して滑りを止めようとしたが…指先はかじかんでおり、剣を零れ落とすというまさかの失態を起こしてしまった。
(………あ…っ…)
螺旋状の空間の奥の奥。暗がりに落ちていくこの身を止める術は無い。
…遥か頭上からユノの声が聞こえたが、空間が歪んでいるせいか、上手く聞き取る事が出来なかった。
何か、掴めるものは…と伏した状態で辺りに手を伸ばすが、触れるものは全て氷の冷たい肌の感触ばかりだった。
まるで、蟻地獄に落ちているみたいだ。
…未だに鈍痛が駆け巡る頭で、こんな時にそんな感想をぼんやりと漏らしていると…。
捩曲がった螺旋状の視界が急に、開放感溢れる開けた世界に豹変したかと思うと…。
不意に襲ってきたのは、気持ちの悪い浮遊感だった。
「…うわっ……!?」
天井に上った記憶など無いのに、レトは気付けば…何故か天井から床を見下ろしており、次の瞬間には間抜けな音を立てて床にベシャリと落下した。
俯せの状態。軽く打ち付けてしまった額を摩りながらレトは周囲を見回す。
そこは酷く静かで、そしてやはり真っ暗だったが…今の今までいた歪んだ空間ではなく、まともな城内の景色が広がっていた。
…よくよく目を凝らして見れば、ここは見覚えのある場所だった。
「………入口………大広間だ…」
驚いて後ろに振り返れば、確かに。…最初、この城に入った時のあの大きな扉が堂々と真後ろに立っているではないか。
…歪んだ空間にのまれて、落ちる所まで落ちて…ここに放り出されたらしい。


