亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


…間一髪。反応が少しでも遅かったら、頭を噛み砕かれていたかもしれない。
生死は紙一重の世界。だが、なんとか命拾いしたという安堵よりも、彼の攻撃に明確な殺意が徐々に見え隠れし始めている事へのショックが、何よりも大きかった。

幸いにも単発で終わった魔法陣をかい潜る事が出来たレトは、この流れで更に奥へ…と、素早く身を起こした、その時だった。





―――カランッ…。














金属音に似ているが、鈍い音ではない…どちらなと言えば軽い小さな音色。

駆け抜けようとしたレトに、待って…と叫ぶかの様にすぐ傍から響いた音は、レトを振り返らせた。

…暗闇色の冷たい地面に、それは一つ。

指の爪程に小さく、ましてや光など放っていないのに…白く、美しく映えて輝いて見えたそれが何なのか……レトは、見た瞬間に理解した。






(………あ…)







小さな、それは。






彼と。

彼と一緒に。



約束を交わした、あの夜の。








僕の、大事な。






真っ白な、証石。








大切な。



















…気が付けば、背を向けて逃亡していた筈のレトは無謀にも引き返し、伸びる氷柱の中を転がり込んで……落とした小さな証石に、飛び付いていた。


手中に収めるや否や、レトは直ぐさま前に向き直ったのだが…その行動に僅かでも時間を費やしてしまった事が、いけなかったらしい。

次に顔を上げたレトの目前には……あの不思議な景色は無く、代わりにあったのは、半透明で青白い大きな手だった。


明らかに人間のそれとは異なる、鋭利な爪を持つ四本指の不気味な手。
それは細かな雪を散らしながら勢いよく風を凪ぎ。



小柄なレトの身体を、いとも容易く叩き飛ばした。

「―――がっ…!?」



触れられた箇所が、ピシリと凍り付き、一気に感覚が無くなる。
その一度だけの殴打は凄まじいもので、打撲では済まされないのではないかと思う程だ。