亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


否、揺れたのは、視界だけではない。

…城内が、空間ごと捩曲がっている。



「………!?」

直線を描いていた筈の柱や壁、天井のラインが、飴細工の様に緩やかな曲線へと化していく。
ゆっくりと上下が逆さまになり、一階と二階の境目が無くなる。傍らの動く壁を見れば、何処の階のものなのか…長い階段が減り込んでいるのが見えた。
何もかも混ぜ込んだ様な、横に伸びる螺旋状の世界が二人を中心に構成されていく。
波打つ奇怪な空間は、まともな足場を与えてくれない。
何処に重点を置けばいいのか混乱する身体は、今にもバランスを崩して転倒してしまいそうだ。

加えて捩曲がった空間内のあちこちから強烈な吹雪が吹き込み、大小の氷柱が生えてきている。


ここは、城の中。
長い廊下の真ん中の筈なのに。
…まるで、深い深い鍾乳洞の中にいるようだ。


空間の歪みは止まる気配が無く、シャンデリアやステンドグラスの明かり取りが足元を横切っていくのが視界の隅に見えた。
…切り離された状態の空間。このままでは閉じ込められてしまうかもしれない。退路を断たれるのは危ういと、レトはユノに背を向けた。

暗がりの奥に、何処かに繋がる道があると信じて、レトは駆ける。しかし、その逃亡を容易に見逃すユノではない。

「………何処に行くんだい」

レトの足が早いことは分かっている。視線の先であっという間に小さくなっていく小柄な背中に向かって、ユノはゆっくりと指を差した。

…宙に伸ばされた細い指先に、小さく青白い仄明かりがぼんやりと灯る。

瞬間、駆け抜けるレトの目と鼻の先に…青く光る不可思議な魔法陣が浮かび上がり…。



決して眩しくはないが、じんわりと瞳を覆うその淡い光に、レトは息をのんだ。

鼻先が魔法陣に触れるか否かという至近距離で足を止めたレトは、咄嗟に身を捻って脇に転がり込んだ。
陣から光が放たれたと同時に、上下に並ぶ巨大な氷の刃…裂けた獣の口に似た悍ましい形の氷が現れ、レトの頭上の何も無い空間に噛み付いた。