「……僕が怖い?」
「………」
「……僕のこと…嫌いになったのかな?」
「………違、う…」
「それなら逃げないでくれよ。ちょこまかと逃げられたら困るんだよ。………………僕の欲しいものを返してもらわないといけないんだから」
最後に呟かれた言葉は、酷く冷たい声音だった。
…瞬間、青い霧がキラキラと瞬きながら辺りの暗闇に散乱した。
周囲に散らばる無機質な殺意の気配に、レトの身体は強張る。
何物も見逃さないとばかりに忙しく動く眼球は、足元から忍び寄る氷の歩みをいち早く捉えた。
一気に両足に絡み付こうとする青い冷気から跳び退き、転々と足場を変える。
寄り掛かった壁にもその魔の手は容赦無く這い回り、レトのマントの裾を素早く掴んだ。
(………!?)
見る見る内に壁と共に凍てついていくマント。これ一つに構っていては隙を作るばかりだと判断したレトは、握り直した剣で固く凍り付いていく己のマントを切り裂いた。
マントは一気にみすぼらしくなってしまったが、犠牲が最小限、それで済むのならばどうってことはない。
壁から離れ、同じ箇所に止まらぬ様に廊下のあちこちを駆けるレト。
無論、強烈な青い冷気は空気中にも散布されているようで、動き回るレトの衣服や髪は薄い氷が徐々に張り付いていっていた。
青い霧の中を平然と歩くユノと、彼と冷たい魔力から離れる様に廊下の奥へと移動するレト。
ユノの揺らめく真っ赤な瞳に、暗く小さな炎が一つ、また一つと宿っていく。
「………返してくれよ。……返してよ…返して…レト…。………あの玉座は、僕のものなんだよ?………僕の、場所…なのに………僕の夢なのに…!」
「…ユノ!………僕、僕は………違う…!………僕は、ユノと…こんな、こと………」
「…違う?……そうさ…違うさ。………違うんだから………違うって分かっているなら……返してよ…!!返せ!返せよ!」
「…ユノ」
「返せ!!」
―――グラリ…と。
レトの薄暗い視界が、波紋が走る水面の様に大きく揺らいだ。


