亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


肌を刺す冷気が、床一面を塗り潰す勢いで広がっていく。
青白い風が撫でていった場所には、一秒足らずの僅かな間を置いて氷の波が押し寄せた。


危険を察して咄嗟に跳躍したレトは、直ぐさま腰の剣を抜き出し、傍らの柱に突き刺して身体の落下を防いだ。
今地面に着地すれば、たちまち氷の波にのまれるだろう。

突き刺した剣を両手で掴んでの宙ぶらりんの状態で、レトは豹変していく長い廊下を見下ろしていた。
マントの内側にずらりと並ぶナイフを抜き、汚れ一つ無い真っ白な壁に突き刺して足場を作っていく。

…冷気が及ぶ範囲が足元だけであるのが、唯一の救いだ。
だが、これもいつ壁を這うか分からない。

…いや、違う。



今、本当に注意しなければならないのは………。
























「見付けた、レト」























明るく自分の名を呼ぶその声を耳にして感じたもの。

―――それは、凄まじい悪寒だった。





不覚にも瞬きをしてしまったレトの次なる視界に飛び込んできたのは、壁一面に一瞬で駆け巡る蜘蛛の巣の如き亀裂の世界だった。
ああ、いけない…と後先考えずに目の前の壁を蹴って離れれば……たった今まで自分が必死で張り付いていた壁から、巨大な氷柱が鋭利な先端を向けて生えてきた。

「………っ…!?」

自分に向かって伸びる氷柱を、宙で身体を捻ってなんとか避ける。
反対側の壁からも同様に氷柱が伸びてきたのを、レトの流れる横目は捉えた。

避けられないと瞬時に察する頭と身体は、ほとんど無意識で次の策に移るべく動く。
背中に抱えた剣を抜き取りざまに、伸びてきた氷柱の先端を一気に切り落とした。

円錐から不格好な円柱に変わった氷柱。
それを足場にした途端、狙っていたかの様に何処からともなく細かな氷の刃が飛来する。


いくら夜目でも、全部を確認することは出来ない。

それでも最低限の防御はと、レトの剣は一降りだけ、闇夜を裂いた。


剣による風圧が、氷のつぶてを弾き落とす。だが、幾つかは風にのまれず飛来を続けた。