………しかし、今は重臣への不満に悩んでいる場合では無いのだ。
………あの書状が…。
あれが………まさか本物だとは………。
………反国家を企む愚かな民どもの仕業かと、最初は考えていた。
…しかし、その書状は………何処か、出来過ぎた代物だった。
…紙の質、流れる様な筆跡………そして一番下に印された……あの紋章。
………本物だった。
………本物、だったのだ。
…老王の額に、また冷や汗が浮かび始めた。その様子を、ケインツェルはニヤニヤしながら盗み見る。
「………私も当初、偽物であるかと思っておりましたが……本物である可能性はゼロ、ではないと考慮しておりましたよ?よくよく、視野を広げて大きく考えれば…有り得ないことも無い、と…」
「………貴様……最初から危惧しておったのか…?」
誰が見ても偽物だとしか思わないし、考えもしない問題の書状を、ケインツェルは独り、気にしていたというのだ。
ケインツェルは顎に手を添え、首を傾げる。始終笑っている目が、老王を映した。
「………有り得ることです。王よ。何故ならあの書状の送り主は…………………」
ケインツェルの銀縁眼鏡が、ずらした途端キラリと光った。
口元の笑みが、深くなった。
「―――…かの、大国フェンネルでありますからね…」


