耳を塞ぎたくなる様なか細い泣き声に、当然ながら答えてくれる声も、差し延べてくれる誰かの手も無い。
尾を引いて虚しく響き渡っていく音色を聞きながら、レトは改めて気が付いた。
今自分は、独りなのだと。
そう、今は。
………今は、あの大きな背中は、もう無いのだ。
どんなに呼んでも、泣き喚いても。
…レトと呼んでくれる父は、いない。
ここは、父のいない世界。
僕は、独りだ。
(………………独り…は………怖いよ…)
自分だけの世界は静かだ。
孤独の世界は、酷く静かで、真っ白で、真っ暗で。
誰もいない。
何も無い。
何の温かみも、形も、無い。
唯一の頼りは、孤独だけ。
しかし孤独は、この寂しさを埋めてはくれない。
いっそ、孤独で埋めてしまえば楽になるかもしれない。けれども、父は。
父は……そこに救いは無いと、言っていた。
―――孤独は、糧とするものだ。…己が糧にされてはならぬ。
「………………父さん………父さんなら…どうするの…?」
父ならば…と考えるのは、一体何度目だろうか。
ここにいるのは、僕独りなのに。動かなければならないのは、僕なのに。
どうしてこうも自分は…弱いのだろう。
僕は、どうすればいいのだろうか。
…教えてくれる人はいない。ならば、僕が。
僕が、決めなければならないのか。
「………無理だよ……………僕……僕じゃ…」
胸の奥から込み上げる感情を吐き出す様に、再びレトの瞳は新たな涙で濡れていく。
また一つ、小さな嗚咽を漏らしてしまった時だった。
「―――チチチッ」
…聞き慣れているけれども耳にしたのは随分と久しく思える小さな鳴き声に、レトは泣き顔をゆっくりと上げて辺りを見回した。
暗闇に慣れた夜目は、廊下の先で動く小さな影を直ぐさま捉えた。
チマチマとした動作で歩み寄ってくる影は、レトの不安を掻き消し、安堵さえも覚えさせた。
「…アル、バス………」


