それだけの言葉を残して、守人はアレクセイの前から消えた。
もう何処にも、あの神秘的な空気は漂っていない。
(………“彼”は…狂気…)
守人の言葉を、頭の中で反芻する。背後に控えていた数人の兵士達は皆、全く訳が分からないと首を傾げていたが。
アレクセイだけは合点した様に、独り頷いていた。
―――“彼”………狂気を誘う者。
“彼”を見た少年の、自我の崩壊。
………王族にしか、見えない。
……もしかすると…自分は、それをよく知っているのかもしれない。
何故ならば、それは。
…ああ、まるで。
「―――………かの、狂王………52世の時を…………振り返っている様だ…」
「ねぇねぇ、リルリルはー?」
「ダリル様でしたら資料室でお見受けしまし……って…ルウナ様!?こんな時間まで何故起きておられるのですか!?」
デイファレトから強大な魔力が感知されたという薮から棒の情報に、慌ただしく城内を行き交う兵士達。
バリアンの監視に加えて今度は逆隣のデイファレトか…と、皆大忙しである。
普段は静かな城だが、夜更けも近い今夜は、たくさんの足音で酷く騒々しかった。
出入りで忙しいそんな兵士達が歩き回る螺旋階段の傍。
今も尚謁見の間にいるアレクセイの指示を師団長の一人が待っていたのだが、この時刻に聞く筈の無い声を彼が聞いてしまったのは、そんな時だった。
驚いて足元を見遣れば、なんとそこにはまさかのルウナが、軍服の裾を引っ張りながらこちらを見上げているではないか。
琥珀色と鮮やかな赤のつぶらなオッドアイは、幼くとも妙に目力があるから不思議だ。
ここはお城。王子様がいるのは当然の事だが…問題は時刻だ。
良い子はとっくの昔に寝ている時間である。
寝間着姿ならまだしも、何故かルウナ王子は品の良い服を昼間同様にしっかりと着ている。
齢2才の王子は、お世話係の知らぬ所でお着替えを極めていたらしい。


