「王位の、喪失…?」
『―――…左様』
日が暮れてから、早数時間。宵もすっかり薄れ、今日という日が明日に移り変わる境界線に差し掛かった頃だった。
厳重な警戒心を持って構えていた意識は、砂漠で生じていた小規模の内乱から、まさかの雪国に慌ただしく向きを変えていた。
突如、何の前触れもなく強大な魔力がデイファレトから感知されたのだ。
魔力の発生源や詳しい位置などは不明。隣接する両国からの魔力の感知など日常茶飯事で、通常ならばさして気にする事も無いのだが。
その大きさと、魔力の質が問題だった。
「デイファレト北部の奥地にて、魔力を感知。規模は計り知れません。そして魔力は………白の魔力です」
あくまで冷静に、且つ迅速に報告をしにきた見張りの兵士の言葉に、アレクセイは当初我が耳を疑った。
何故、白の魔力が。
デイファレトはまだ、新しい王を迎えていない。ならば我が国のローアン陛下による魔術だろうか…とも思ったが、白は白でも突発的に発生した今回の魔力は、どうやら属性が違う様だ。
ローアンではない。
では、誰が。
しかし、何故。
主のいない静かな謁見の間で、指示を待つ兵士の前で困惑するアレクセイだったが、そんな幾つもの疑問に答えるかの様に、聞き慣れた声が彼の頭上から静かに降りてきた。
『―――かの国の玉座は、未だ無人である…』
老人のしわがれた、しかし響きのある低い声の主に目を向ければ…そこには、玉座の真上で静かに浮遊する、純白の法衣を纏った老人の人影があった。
深くフードを被った顔の見えない老人の身体は、微かに透けて見える。じっと目を凝らして見ていると、時折老人が三人重なっている様にも見える。
純白の法衣を纏った三人の老人。
彼等は、この大国フェンネルの城を遥か昔から守ってきた“守人”だ。
必ず城内にいるのだが、普段はローアン以外の人間にはあまり姿を見せようとしないため、お目にかかるのはアレクセイも随分と久しい。


