亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

直ぐさま訪れるであろう最悪の事態を目の前に、サリッサは小柄なドールを強く抱き締めて目を暝った。

迫り来る波の、床を削って疾走する荒々しい足音が直ぐ傍にまで詰め寄った時、サリッサは全てを覚悟したのだが……その直後、何やら温かな空気がサリッサの身を包んだ。

(………?)

…いつまで経っても、痛みも冷たさも襲って来ない。
床に伏せた状態で恐る恐る目を開ければ…黒光りする魔法陣がサリッサの視界いっぱいに映った。
伏せる二人を中心に、ゆっくりと回転する小さな魔法陣が床に浮かんでいる。
襲い掛かってきていた巨大な氷の波は、サリッサ達のいる魔法陣を次々に避けていく。

目下から漂う高貴な漆黒の光に目を丸くしていると、一体いつの間に移動していたのか…離れた場所にいた筈のノアの声が、背中越しに耳に届いた。

「…じっとして。この陣の中ならば危険は御座いません。……不味いですね………暴発した魔力が強過ぎる」

「…暴、発……!」


ユノの魔力の暴走が凄まじい事は、サリッサもよく知っている。
感情の起伏に呼応して魔力が暴走したのは、過去にも何度か。つい先日の襲撃の際にも起こったが、今目の前に生じているこの暴発はそれまでの比ではない。



そう、強大過ぎるのだ。




―――ぐらり…と、謁見の間の空間が一瞬揺らめいたのを、ノアは見逃さなかった。
青い氷の波が謁見の間の扉を越え、長い廊下の先へ、闇を貫きながら流れていく。

城全体に張り巡らせていた結界に幾つもの小さなひびが走っていくのが、ノアには分かった。

(―――城外に、出て行く)









足の速い青い波と霧状の風が、縦横無尽に城内を駆け巡る。
アーチ状の高い天井に浮かぶ幾つもの魔法陣を素通りし、石造りの壁の僅かな隙間に滑り込んでいく。


純白の壁が、じわりと青く染まっていく。




自由を求めるかの様に、ユノの青い魔力は吹雪が舞う外に這い出ると、勢いをそのままに城壁に手をかけて登っていく。

城壁全体の横一列に黒い魔法陣が並んでいたが、そんな障害など意に介さない様だった。


ひび割れる魔法陣の隙間から、青い魔力は城外に漏れていく。