亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

傷一つ無いノアを忌ま忌ましそうに睨み付けるユノの周りに、夥しい量の魔力が風となり、霧状となって溢れ始める。
一体、この小さな身体の何処に、強大な魔力を宿しているのかと思う程、それは大きい。

赤い両方の瞳が、更に赤みを増していく。



「………………なんでだよ…なんで僕じゃないの…僕じゃ駄目なのか?…僕は……僕は、王になるために生まれてきたのに………………こんなの、認めない。………絶対に認めない…絶対……。………………え……?」


…ふと、何かに呼ばれたかの様に、ユノは玉座に振り返った。
顔を向けた先にあるのは、すっかり凍り付いた玉座だけ。
ユノを呼ぶものなど何一つ無い。それ以外に目を引くものなど何も無いのだが。


しかしユノの目は、他者には見えない何かを捉えたらしい。
目を大きく見開き、呆然とした表情のまま……一歩、後退した。

「………ユノ?」

次第に怯えた表情へと変わっていく息子の様子を怪訝し、サリッサが恐る恐る声をかけたが…。



「………何?」

…と呟いた瞬間、ユノは両手で両耳を塞いだ。



二歩、三歩と徐々に下がるユノの耳には、母の呼び声は聞こえない。

外界の音色は何一つ、聞こえない。









聞こえるのは、玉座の前に立つ人影の、囁きだけ。



















人影は、静かにそこに立っていた。

いつの間にか、立っていた。

自分を、呼んでいた。







背が高い。

大人だ。

ぼんやりと見える影の顔は分からないが、黄金色の明るい髪色だけは鮮明だった。




やけに色白の…血の気が無いと言ってもいい影の手がゆっくりと上がり、ユノを指差す。








影が一言囁く度に、影は、頭から血塗れになっていく。













幻にしては、生々しく妙にリアルで。



一向にその姿と囁き声は消える気配が無くて。

















「………違う………僕の、せいじゃない…………僕が悪いんじゃない…!違う………違う………!」

「…ユノ!?……何を見ているの!?…ユノ!!」






「違う!!………………全部レトのせいだ」