亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



「…ユノ……ユノ!」

「どうして僕ばっかり…どうして?…なんで僕じゃないの…なんで僕を選んでくれないの…………………………なんで、僕ではなくてあいつなの?なんでだよ!答えなよ!…答えろノア!!」


青みがかったつむじ風が、勢いよく振り返ったユノの動きに合わせて後方に流れる。
細かな氷の刃を含んだ風は、主が睨み付ける先に佇む影に襲い掛かったが…その鋭い爪は、ノアの長い髪を靡かせただけに終わった。

冷たい風を受け流したノアは、ただじっと、ユノを見詰めていた。

物言わぬ緑の瞳は、柔らかな月明かりを孕みながらも、無機質な宝石同様に、そこに感情は見られない。



冷たくも、憂いを秘めている様にも見えるノアの眼差しが、ユノの苛立ちを更に倍増させた。
怒りはそのままユノの魔力に同調し、青白い風が再び渦を巻く。


「…ノア……………ねぇ、ノア!……何か言ったらどうなんだ!!ノア!!」

「―――…全てはアレスの意思です、ユノマリアン=エス。………私が申し上げられる確実な答えは、結果のみ。……それに至る理由は、ただの私の憶測です」




ようやくノアが口を開いたかと思えば、出て来た答えは答えではなかった。我関せずといった切り捨てた物言いに、ユノは顔をしかめる。
だが、ノアの態度は少しも変わらない。

「………ユノマリアン、貴方は王子だ。歴代のデイファレト王の血を引いた、確かな末裔。貴方は王子。ですが……………………貴方は、王ではない。それだけ…です。……エス家の王朝時代は………途絶えました」

「…そんな…事が……っ…!………そんな事があって、堪るかぁ!!」






凄まじい怒気に塗れたユノの魔術が、天井から巨大な氷柱を瞬時に生み出す。
ユノの叫び声と同時に氷柱は一気に真下に佇むノア目掛けて伸び、その細身を背中から串刺しにした。

…直後、サリッサの悲鳴が響き渡ったが……身体の真ん中を太い氷が貫通しているにも関わらず、ノアは平然と立っていた。

血も無い、衣服の切れ端も無い。
ただ、腹部から氷が生えている。そんな奇妙な光景だ。