何とも耳障りな不協和音。ぶつかり合う衝撃音も、互いの交差に飽いてしまったのか…僅か数分後には、一切の騒音が息を潜めていた。
…静かになったこの部屋を、ふと見渡してみれば…あれほど綺麗だった美しい装飾の数々も、今は半透明の冷たい仮面を被り、そこら中から氷柱を垂れ伸ばしている。
謁見の間の原形など、既に止めていなかった。
「―――………ああ……もう…!………逃げられちゃったじゃないか…!……………君の、せいで…!!」
苦々しく溜め息混じりに呟き、ユノは部屋の隅に横たわる少女をちらりと一瞥した。
ドールは、冷たい床に伏していた。
マントに包まれた華奢な肩は、ゆっくりとだが微かに上下に動いている。
息はある。…だがしかし、それ以上はピクリとも動かない。
……邪魔をしてきた少女 の身体は、紅よりも生々しく濃い赤の中に浸っていた。
手足に突き刺さった冷たい刃が痛々しく、ユノは顔をしかめて「…僕のせいじゃない」と呟いて視線を逸らした。
そうだ。僕のせいじゃない。
皆、皆、僕の邪魔をするからだ。
自業自得なんだ。
僕は、悪くない。
悪いことなんか、何一つしてやしないのだから。
「………ユ…ノ」
静かに頭を抱えて何やら呟き始めるユノを、震えるか細い声が呼んだ。
ドールが倒れている部屋の隅の反対側には、顔面蒼白のサリッサが呆然と佇んでいた。
運良くユノの白の魔術から逃れていたらしく、彼女はほとんど無傷だったが…精神的なショックは計り知れない程の様だ。
予想だにしていなかった事の展開に頭は追い付かず、そして息子の暴走に無力な自分は何の役に立たない。
途方に暮れるサリッサだったが、しかし何もしないという訳にはいかないのだ。
……今のユノは、何か…危険だ。あの赤い瞳は、とても恐ろしい。あれだけは…息子の一部ではない様な気がするからだ。
…ユノが危ない。レトが、危ない。
意を決してサリッサはユノを呼ぶが…返事は無い。
「……僕は、悪くない。…僕は悪くない……僕は悪くない…………皆がいけないんだ……皆が僕の邪魔をするから…皆が僕から全部を盗っていくから………………」


