宙でクルクルと回転する氷は、月明かりを受けてキラキラと輝いている。
次第に回転が鈍く、速度は遅くなる。
刃と相違無い尖った先が、ゆっくりと向きを定める。
全部が、同じ方向に。
ピタリと静止した氷のナイフの、虚無同然の殺意が見詰める先には。
「簡単だ。君がいなくなればいいんだよ」
そんな言葉を言った友の顔は、もう、笑ってなどいなかった。
彼の表情は、この短いようで長かった旅の間に、たくさん見てきたつもりだった。お日様みたいな、僕には出来ない明るい笑顔。機嫌を損ねてしまった時の、眉をひそめた顔。納得いかない時や嫌な事があった時の、少し不貞腐れた顔。僕と一緒に悲しんでくれた時の、泣いた顔。
でも、そこに立つ彼の表情から見えるものは、初めて見るもので。
それは怒りだとか、敵意だとか。そんな生易しいものじゃなくて。
憎悪。
憎悪だ。
僕はその感情を持ったことが無いけれど。僕は、知っている。
幾つもの青白い閃光と、風を切る音が、一瞬で迫ってくる。
レトの優れた狩人の目は、その動きを直ぐさま適確に捉えていたが…。
嗚咽を堪えるのに、涙を零さぬ様にするのに、必死で。
狩人として育ったとは信じがたい程に、身体は、動かなかった。
動けなかったんだ。
…氷の青白く鋭い光が視界いっぱいにまで迫ってきた、その直後。
レトの視界の隅から影が一つ飛び込んできたかと思うと……ブンッ…という空を叩く低音が辺りに響き渡り、同時にこちらに飛来していた氷の刃は、跡形も無く粉砕した。
細かな粒と化した氷の結晶は、空間ごとレトから弾かれた様に散乱した。 ブワッ…と冷たい粒子の群れは突風に煽られていくかの如く、佇むユノに向かって舞い戻っていく。
…何が起きたのか、など…レトの今の頭では考えられない。


