亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



「―――……ユ…ノ…」

わななく唇で彼の名を声にするが、それはあまりにも小さい声で、当然ながら誰にも、本人にも、聞こえる筈が無い。

………いや、恐らく彼は…今のユノの耳には…僕の声など、一つも届きやしないのだ。
…分かるんだ………だって彼の目は…僕を映してはいるけれど。

…僕を、見ていないのだ。





「………君は違うのに…違うのに、違うのに、違うのに違うのに…………君、だなんて……………………………………………君も…僕の邪魔を、するんだね………酷いなぁ…」

弧を描く風と屈折する風が交差し合い、幅を利かせながら徐々に巨大化していく。
風の力は強大で、垂れ下がった長い氷柱を次々に折っていく。


「……僕、は…」

「…僕の邪魔をして、僕の夢と居場所と……一番大切な事を…君は僕から盗ったんだ。………酷いなぁ……酷いなぁ、レトは…」


不意に大きく開かれた真っ赤な瞳の輝きが、身じろぎする水面の如く、揺らめいた。

…ハッと、何かに気が付いた様にレトを真っ直ぐ見詰める赤い眼差し。
レトの足は、無意識で後退していた。

「………あ…そうか…。……そうだよ、レト。……………僕の夢も、夢を叶えてくれるっていう君の願いも……全部上手くいく方法があるよ………………凄く簡単な事なのに……………どうして気が付かなかったんだろう…」

「………方…法……?」

「そうだよ」






…刹那。


凍てついた湖上に裂け目が走る音に似た、高音と低音の入れ混じった響めきが耳をつんざいた。

広い謁見の間の至る所に、円錐型の尖った巨大な氷柱が現れた。
大小のそれらは床から、天井から、側面の壁から。

氷が張る場所ならば何処からでも伸びる。

上も下も横も関係無い、青白い鍾乳洞の様な空間がレト達を包む。
…同時に、ユノを中心に渦巻いていた風が急に消え失せたかと思うと……辺りから砕け散った氷の破片が、彼の周りに音も無く集まり出した。

周囲に浮遊するそれらは手の平に収まるくらいの、小さな破片。

青く鋭利な先端を持つ、ナイフの様な氷の群集。