高い天井に向かってとぐろを巻く、吹雪の竜巻の勢いが…少しずつ、少しずつ、増していく。
風が強い。
さっきまで微風を受け流していたレトのマントも、今は突風の如きこの冷風で大きく翻り続けている。
向こうに行け、行ってしまえと押してくる吹雪を全身に受けながらも……レトは、動こうとしない。
顔に張り付いたり離れたりと忙しく乱れる髪の内には、揺らめく紺色の双眸。
濡れた瞳。
透明な滴をたくさん溜めた、怯えた瞳。
「―――僕は…王になりたいだけだって…言っているのに…」
ユノが悲しそうに俯けば、謁見の間の壁が厚い氷で覆われていく。
彼が重い溜め息を吐けば、氷の波は壁を伝ってそのまま天井に走る。
彼が再び顔を上げれば、透き通った青白い天井から、巨大な氷柱が何本も垂れ下がってくる。
「…僕は、王になるために……今まで生きてきたのに。僕の願いは……………それだけで、いいのに。…それさえ叶うなら…………僕は、何だってしてきたのに……………………………………ねぇ、レト…」
―――ゴウッ…と、突風がレトの脇を通り過ぎた。
それは青白く、突風にしては小さな風でやけに冷たく…撫でられた頬に電流に似た小さな痛みがじんわりと走り…。
頬の違和感に無意識で手を伸ばせば、何故か頬は濡れていて。
(………)
触れた指先は、鮮血で染まっていた。
斜め横に走った頬の傷からは、一筋の赤が流れていた。
刃物で切り付けた様な跡とは少し違う、もっと滑らかで、真っ直ぐで。
だからだろうか。
本の小さな傷なのに、止まらない。
血が、止まらない。
指先の赤色が己の血であると理解した途端、レトの頭は困惑と恐怖に塗れ……例えようの無い、何とも言えない感情で、胸が張り裂けそうだった。
………痛い。
……胸の辺りが…とても痛い。


