「―――君は、違うよ。君はさっきから何を言ってるんだい?君は狩人で、僕は王族で、住む世界も立場も何もかも違う。…そうさ、違うんだ。違うことだらけだよ」
「………ユ、ノ……僕は…」
「違う。違うよ。当たり前だ。そんなの最初から知ってる。君は僕を馬鹿にしているのかい?…阿呆らしくて話にならないよ。君が言うように違うのに、違うのにさ……………………………………………それなのに君で間違いないって、おかしいよね?」
ニコリと、ユノはそう言って最後に笑った。
誰がどう見ても笑顔であるその表情は、無理矢理被せただけの、ただの仮面で。
…目にした途端、視界が急に、白く霞んだ。
上も下も、左右も、何処もかしこも。
白く。
そして同時に、無音の世界が静かに崩壊する。
それは自らに亀裂を刻んでいく硝子の金切り声に似た…。
ピシリ、ピシリ…という。
甲高い…。
震える瞬きを一度だけ。
今やその暗闇も一時の安住の空間ではない、瞼の内の暗がりを見詰めて、再びレトの瞳と意識が外界を前にした時。
そこは、一秒前に見た世界とは違っていた。
目に映るそこは全て、青白い。
月明かりを跳ね返す冷たい輝きが、そこら中を照らしていて…そして恐ろしい程に。
(………寒…い……)
気が付けば謁見の間は、一瞬で氷の空間と化していた。
玉座も階段も、全て亀裂塗れの薄い氷が張っている。
恐る恐る足元に目をやれば、床は凍てついた湖上の様に冷たくなっていた。
何処から湧いて出て来ているのか分からない冷気が、氷の厚みをじわりじわりと増やしていく。その浸蝕は見境が無いらしく、レトの両足をも巻き込もうと忍び寄っており、レトは慌て一歩後退した。
高い天井から、ピシピシと氷が這いずり回る不気味な音が下りてくる。
視界の隅に見えた吐息の白さが、ミルクの様に真っ白だ。
靄ではなく、ダイヤモンドダストと言った方が正しい。


