亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

あの大蛇までもが獰猛さを捨てて、谷底でとぐろを巻いて息を潜めている。
明らかにただ事ではない目下の有様を眺めていると、切り替えの早いジンがいつもの無感情の声をポツリと漏らした。


「……酷く…怯えています」

「…怯えて……って、え?…何に?」

首を傾げるイブは周囲を見回したが、脅威を感じる様な敵は何処にも見当たらない。

訳が分からない。

一体それって何?と、もう一度イブは口を開こうとしたが…。











―――…?


例え様の無い、気味の悪い悪寒が…身構えてもいなかったその背筋を走り……次の瞬間には、その口は固く閉ざされていた。


思わず閉口してしまったのはリストも同様で、無意識で何度も腕を摩っていた。
これは、肌身を刺す雪風の寒気ではない。
もっと違う……もっと異質な。


………これは…。
















「………魔術…か?」

「ええ。それも………………とてつもなく、強大な…」

「………………なんか…似てる」

ぶるりと身を震わせるイブは、この何処からか漂ってくる魔術の気配に覚えがあった。

この臭い、突き刺さされる様な感覚、圧迫感。


………本の二年前の過去。
あの時の戦場で目の当たりにした、あの黒ずんだ恐ろしい魔力とよく似ている。


似ているけれど。




(………根本的には…違う…)


黒の魔術とよく似ているが、これは違う。違うけれど、同等の力。

黒とは違って清いけれど。



少し、濁りのある…。



















「……谷の向こう側……城から流れ込んでいます。…これは恐らく……………………白の魔術」

「……白?…白の魔術って……ちょっと待て………白の魔術は…王族の…!」











どうして白の魔術が城から放たれているのだ…というリストの疑問は、舌の上まで出かかっていたのだが。





―――伏せて下さい、の鋭いジンの声がそれを遮り。




そこから先に出る事は、なかった。