手を借りている場合じゃねぇよ!?と、慌てて谷から地上へと跳び上がり、リストはジンに駆け寄る。
「何で切腹!?何でお前臓物見せようとしてるの!?何でお前そんなに悲しそうなの!?何で心なしか泣いてんの!?」
「………止めないで頂きたい、リスト=サベス。私は死罪を犯しました。これは彼女を傷付けてしまった私なりの償いであり、戒めであり………」
それに嫌われているのは重々理解していましたが面と向かって嫌いなどと言われるのは私の御心が全くもって耐えられない…とか何とか、最後は物凄い早口の呟き声が聞こえたが、そんな事はどうでもいい。
ややこしい事態を招いた元凶のイブに一発拳骨をお見舞いすると、リストはジンの切腹を強引に中断させた。
「お前ら揃って俺を睨むなよ!少なくとも俺は今正しい事をした筈だ!!表彰されてもいいくらい絶対!!…御託はいいからとにかく………谷底の獣を見てみろ……………………………馬鹿みたいに大人しくなってやがる」
谷を下りて登って…という地道な大移動を経てきたリストは、正面に立つ二人の無言の威圧感を適当に流し、谷を指差した。
…言われてみれば確かに。…やけに静かだ。
広範囲に渡るジンの一撃必殺により、ここら一帯で蠢いていた獣の群れは大方片付いていた。雪の代わりに足元に敷かれた屍の絨毯が、その激しさと荒々しさを物語っている。
…だがしかし、これで全部ではない。
斬っても刺しても、獣はまるで地獄の死者の様に谷の底から這い上がってくる。こうしている間にも、数十匹あまりが谷を登ってきている筈なのだが…。
今はそんな姿も無ければ、鳴き声一つ無い。
殺気も、無い。
飢えに狂った殺意の濁流が、いつの間にやらぱったりと止んでいた。
これは何事か、と谷底を見下ろせば…獣は、いた。当たり前だが、暗い谷底は獣の坩堝と化していた。…だが、そのほとんどが谷を登ろうともせずに何故か静止しているのだ。
動いているものもいるが、それらは必死に穴を掘ったり岩陰に身を潜めようとしたりと、奇妙な行動をとっている。


