亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



ジンの鋭いクナイは、真後ろに立つイブの喉元をあともう少しの所で切り裂こうとしていたらしい。
キラリと赤く光る先端は、イブの首に触れるか否かという所で静止していた。

クナイを握る逞しい腕も、それをなんとか両手で押さえ込んだイブの身体も、押し合う双方の力でカタカタと震えている。


仲間一人を危うく殺そうとしたのだ。…間違えたでは済まない事態だが………更に最悪な事に、実は事態はまだ収まっていない。


…イブを見据えるその隻眼から、激しい殺意が消える気配が無いのだ。

瞳孔が開いてしまっているジンの目は、イブをイブであると認識していないらしい。
…それを裏付ける様に、クナイはイブから一向に外れる様子が無い。仲間同士である筈の双方の押し合いが続く。

「……ちょっ…と…!……ジン!」

「………」

…聞こえているのか、いないのか。恐らく耳には入っているが、完全なる殺人鬼と化した彼の意識には届いていないのだろう。
…これだから、彼の単独行動は見逃せないのだ。
武術に関しては優秀だが、『相手は必ず滅殺すべし』というジンの民族の戦闘における考え方故か、時折無差別殺戮という恐ろしいスイッチが入ってしまうらしい。
…彼を指南しているローアンの、唯一の悩み所でもある。

この難癖の被害を何度か受けている仲間側としては、これも日常茶飯事の一つ。もう慣れっこなのだが。

…少しずつ、数ミリ単位で距離を詰めてくる鋭利な刃先を一瞥し、イブは眉をひそめながらジンの腕を掴む手に力を込めた。

少々尖った爪を添えた華奢な指が、固い筋肉に食い込む。







「………ジン」

「………」

「…ジン」

「………」

「―――………無視するなら嫌い」