亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


すかさず、大蛇の真っ平らになった口から飛び出た牙を掴む。
粘着質な唾液で濡れそぼった牙からは、気味の悪い紫色の大量の毒が滴り落ちた。紫の飛沫を右腕から上半身に至るまで浴びたが、ジンは少しも動じない。

毒に耐えられる様に鍛えられたジンにとっては、どんな濃い毒素も無害なものとなってしまうのだ。
鼻を突く強い異臭が辺りに霧散し、周囲にいた獣達が巻き添いを喰らって次々に倒れ伏していく中で、ジンだけが紫の吹雪を切り裂く様に走る。

牙を掴んだまま、片腕のみで大蛇の巨体を愛用の鞭の如く勢いよく振り回した。
大蛇は頭部以外実体は無いのだが、しっかりと重さはある。

一振りすれば凄まじい突風がジンを中心に巻き起こり、周りは疎か、谷底から這い上がってきていた者達も揃って一掃された。

「―――滅殺……滅、殺…滅…」


巨体を谷に向かって無造作に放り投げると、こちらに向かって蛇行してきていたもう一匹の大蛇に一瞬で詰め寄り……素手のみで上顎から脳天にかけて、貫いた。

固い頭部。大蛇の白い頭の天辺から、血塗れのジンの手が生えていた。
…動かなくなった大蛇から腕を引き抜くと、両手にクナイを握り直し、振り返り様に一匹…また一匹…喉や心臓を裂いて、貫いて。




ジンが歩む所は全て、一瞬で、真っ赤な絨毯へと変貌していく。

視界から獲物が無くなれば、その隻眼で獲物を探す。
次は何処だ、何処にいる。何処にある。




次は何を刺せばいいのだ。








息を吐く間も無く、呼吸さえも忘れる程に。


気配がすれば、見る前に刃を向けて。





真珠に似た丸い、丸い…しかし赤い粒の群れが、雨の様に舞う。



すぐ脇から、視線を感じた。
それだけで、ほとんど反射的にジンの身体は動く。

右手のクナイを手中で回転させ、次の気配に向かってただ真っ直ぐに伸ばしたジンの腕は…。








「―――…あんたって暴走すると、本当に見境無いよね…」


……寸手の所で、止められた。