亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

「……ダリル!ルナ様ではなくルウナ様です!お名前を省略するなど無礼ですぞ!!」

ダリルの軽い物言いにアレクセイは眉をひそめた。

「……だって、御本人が御自身の事を『ルナです!』と元気良くおっしゃって…」

「ただ言えてないだけでしょうが!!」



一方は熱く、一方は冷めている奇妙な口論を何気無く眺めていると、階上から騒々しい物音が聞こえてきた。

………召使達の、悲鳴にも似た慌てふためく声が響き渡る。

螺旋階段の上から………真っ白な犬が、ドタドタと階段を踏み跳ばしながら駆け降りてきた。
すぐ側を走り抜けて行くその姿を見て、召使達は皆声を上げた。


「―――ルウナ様!?」

「…あ、危ない!!すぐにルアから降りて…!!」

「誰か!!ルアを止めて!!」







階下へ真直ぐに降りて来る白い獣の背には、よく見ると小さな人影があった。


召使達の手を逃れながらそれは止まる事無く………とうとう広間にまで降りてきた。



離れた所で、ルアという名の白い獣は爪を立てて急ブレーキをかけ、ピタリと止まった瞬間………力尽きた様にバタリと床に倒れた。


その拍子に、背に乗っていた人影は勢い余って床に転がった。


…顔面蒼白のアレクセイが慌てて駆け寄ろうとしたが、小さな人影はすぐに自力で立ち上がった。





むくりと上げた顔は、3歳にもなっていないくらいの、まだまだ幼い子供。可愛らしい顔立ちの男の子だ。


黄金色を帯びた色素の薄い茶色の短い髪に、白い肌。

一番目を引くのは…………その前髪から覗く、鮮やかな赤と琥珀色の、異なる瞳のオッドアイ。


少年はローアンを見るや否や、ニパッと太陽の如き無邪気な笑みを浮かべた。