音も無く、気配も無く、その声は突然階上からローアンに投げ掛けられた。
振り返るとそこには……重苦しい長い法衣を難無く着こなした青年が一人。
肩より下の中途半端な長さの焦げ茶色の髪を、外撥ねしていることも構わず適当に紐で結っている。
ローアンよりも少し背丈があり、こちらにゆっくりと近寄って来る彼の目は、何だか無表情……いや、全てにおいてやる気が無いとでも言うかの様で………ローアンを軽く見下ろしている。
……が、彼の瞳は不自然な程ピクリとも動かず、よく見ればその焦点は定まっていない。
顔をしかめる彼女の姿を眼球に映してはいるが………見えていない様だった。
ローアンはカツカツとその青年に歩み寄り、正面で立ち止まって笑顔を添えた腕組みをした。
「――…官長殿、貴殿に書かせたバリアンへの書状だが………それはもう好評だったぞ?…気味の悪い側近に」
「…ああ、それは良かったですね。でも陛下は不機嫌ですね。可哀相に」
「…………その要因に少なからず、お前も入っているんだよ…ダリル…」
「へー。そりゃあ光栄だね女王陛下様」
その二言三言のみで更に不機嫌さが増したローアンを前に、罪悪感の欠片も無ければ我関せずと春の木漏れ日に意識を向けるダリル。
………二年前に終止符が打たれた名高き『六年戦争』。
…その頃からの付き合いである彼は、ローアンが育てた戦友でもあり、心から信頼出来る者の一人だ。
あれから二年。15歳になったダリル=メイは随分と背丈も伸び、なかなかの策士であった彼の明晰な頭脳は、この国の政治にも大きく貢献している。
………だが、口を開けば嫌みしか出ないのは、一向に、変わらない。


